医療・ヘルスケア業界特化

医療・ヘルスケア市場でのPMF検証方法 — 製造業から医療参入する課長の試行錯誤

2025/11/25

医療・ヘルスケア市場でのPMF検証方法 — 製造業から医療参入する課長の試行錯誤

製造業で新規事業を担当し、初めて医療業界に参入しました。大阪本社の少人数チームで、病院のノウハウもブランド力もないところから始めています。KOL(キーオピニオンリーダー)との関係構築、関西での地盤づくり、全国展開の足がかりをつくるために、プロダクトマーケットフィット(PMF)をどう確かめるか。支援会社・代行会社・コンサルとも連携し、営業や事業開発としてヘルスケアの販路開拓を進める中で得た試行錯誤をまとめました。2024〜2025年のトレンド(医療DX・生成AI、病院再編、働き方改革、コスト圧力)を前提にしています。

1. PMFを「数字+合意」で定義する

  • 数字:時間外削減、在院日数、再入院率、インシデント減、TCO削減、回収期間など、医療機関が意思決定で使うKPIを設定します。
  • 合意:診療科部長・看護部・情報部・経営企画が「続けたい」と言うかどうか。複数部署の納得をもってPMFと捉えます。
  • 期間:90日〜180日を目安に、PoC→評価→稟議のサイクルを回します。長すぎると温度が下がるので、PoC目標は3か月以内に設定します。

2. PMF検証の設計(10ステップ)

  1. ターゲット診療科と課題の仮説を立てる(例:救急の待ち時間、看護部の申し送り負荷)。
  2. KPI候補(時間外、TCO、患者体験など)を3〜5個に絞り、病院側と合意。
  3. データフロー・ログ・責任分界・モデル更新(AIの場合)を明文化。
  4. PoC計画書を作成(目的・期間・評価指標・データ範囲・費用負担・撤退条件)。
  5. 倫理・情報セキュリティ審査に必要な資料を初回で提出できるよう準備。
  6. 教育計画(初期・夜勤・新人)と問い合わせ窓口、L1/L2サポート体制を定義。
  7. PoC実施(30〜90日)。週次で看護部・情報部と10〜15分の定例を設定し、詰まりを潰す。
  8. KPI測定とアンケート(現場感の定性的フィードバックを必ず取る)。
  9. 稟議セットを作成(効果、リスク、回収期間、横展開プラン)。
  10. グループ病院・他診療科への横展開計画を提示し、追加予算と人員を確保。

3. 2024〜2025のトレンドをPMF指標に組み込む

  • 医療DX・生成AI:ハルシネーション対策(監査ログ、根拠提示UI)、モデル更新審査をKPIの前提に。
  • 病院再編・地域医療構想:重点診療科(救急、循環器、脳卒中、がん)で成果を出すと横展開が速い。
  • 働き方改革:時間外削減とタスクシフトを評価指標に必ず入れる。看護部と情報部が納得しやすい。
  • コスト圧力:TCOを「導入・保守・教育・運用」で分解し、セルフメンテとリモートサポートで下げるプランを提示。
  • ガバナンス:反社・利益相反、内部統制、改訂履歴を明文化し、資料後出しをゼロに。

4. ケーススタディ:関西の大学病院でのPMF検証

背景

看護部の申し送りと記録負荷が重く、夜勤の時間外が問題でした。ブランド力が弱い中、まず「運用で楽になるか」を証明する必要がありました。

進め方

  • 看護部教育担当と情報部を初回から同席いただき、データフロー・ログ・責任分界を共有。
  • PoCを30日で設計し、評価指標を「申し送り時間」「入力時間」「転記ミス」「問い合わせ件数」に設定。
  • 教育は15分の動画+15分のハンズオン。夜勤向け再教育も日程を確保。
  • 週次で10分の定例を実施し、詰まりをその場で解消。生成AIで議事録を要約し、即日共有。

結果

申し送り時間を週あたり90分削減、転記ミスが25%減少、問い合わせも初期2週で落ち着き、PoC評価は「続けたい」が多数。稟議で「時間外削減」「TCO」「患者体験」を数字で示し、回収期間は11か月で提示。90日で稟議通過し、系列病院への横展開が決定しました。

5. ケーススタディ:KOL連携でPMFを早める

背景

ブランド力が弱く、医師からの信頼が得にくい状況でした。関西のKOLに協力をお願いし、共同で評価設計を行いました。

進め方

  • KOLの専門領域に合わせ、評価指標を臨床成績・安全性・時間短縮に設定。
  • 倫理・情報審査の資料をKOLにもレビューいただき、懸念点を事前に解消。
  • KOLが参加する形で部長会・看護部長会に同席いただき、質疑を一緒に回答。
  • PoC後、KOLからコメントをもらい、稟議セットに添付。

結果

臨床現場の信頼が高まり、稟議通過が速くなりました。KOLのコメントが他の診療科への説得材料となり、横展開までの期間が短縮されました。

6. KPI例と計測方法

  • 時間外削減:月次の時間外データ(看護部・診療科)と連動し、PoC前後を比較。
  • 在院日数・再入院率:対象診療科のデータで前後比較。因果を示すため、サンプル期間と条件を明確に。
  • 転記ミス・インシデント:ヒヤリハット報告の件数と内容を分類し、PoC前後を比較。
  • 患者体験:待ち時間、説明時間、アンケートで満足度を収集。
  • TCO:導入・保守・教育・運用の各コストを算出し、セルフメンテとリモートサポートによる削減額を提示。
  • 問い合わせ件数:L1/L2で分類し、PoC期間中の推移をグラフ化。

7. 失敗から学んだこと

  • 資料後出しは致命傷:審査サイクルを逃すと3か月遅れる。初回で不足を洗い出し、1週間で埋める。
  • 「簡単です」は禁句:現場を見て、手順と時間を数字で示す。
  • 時間の見積もりは厳しめに:遅れそうなら前日までに連絡。小さな約束ほど守る。
  • 横展開の絵が必須:単院だけの話だと予算がつかない。グループ展開のプロトコルを1枚で。
  • KOLの力を借りる:臨床の視点と信頼を補う。
  • 失注理由を残す:差し戻しポイントを次の病院で潰す。失注直後に次のアポを入れると勢いが切れない。

8. 30・60・90日プラン(PMF用)

0〜30日

  • ターゲット診療科を3つに絞り、課題とKPI仮説を整理。
  • 技術資料とPoCテンプレを更新し、審査日をカレンダー化。
  • KOL候補と面談し、評価設計の協力を依頼。
  • 関西の重点病院に初回訪問を設定し、キーマンマップを作成。

31〜60日

  • PoCを2〜3件開始。週次定例で詰まりを潰す。
  • 生成AIで議事録要約と提案初稿を回し、速度を上げる。
  • 看護部・情報部に短い定例を設定し、教育とセキュリティ懸念を早期に解消。

61〜90日

  • PoC結果を稟議セットに格納し、回収期間と働き方効果を数字で示す。
  • L1/L2サポートと教育・リリース管理を文書化。
  • グループ病院への横展開プランを提示し、追加予算と人員を確保。

9. よくある質問(Q&A)

Q:どの診療科から始めるべきですか?
A:病院の重点診療科(救急、循環器、脳卒中、がん)に合わせると稟議が速いです。働き方改革を重視する看護部が強い病院なら、申し送り・記録系から始めるのも有効です。
Q:評価指標は何個が適切ですか?
A:3〜5個に絞ります。多すぎると管理が煩雑になり、PoC期間が伸びます。
Q:KOLは必須ですか?
A:ブランド力が弱い場合は強い支えになります。いなくても進められますが、信頼形成の速度が変わります。
Q:価格はいつ提示しますか?
A:PoC開始前に、サブスク/成果報酬/リースの複線を示します。価格だけでなく回収期間とTCOをセットで提示します。

10. まとめ

PMFは「数字」と「合意」の両輪です。KPIを決め、審査と教育の懸念を先に潰し、短いスパンでPoCを回す。失敗は必ず出ますが、記録と仕組み化で再現性が生まれます。今日も院内のカフェで5分だけ振り返ります。「誰の時間を減らせたか」「どの懸念を潰せたか」。答えが一つでもあれば、次の90日も前に進めます。
また病院へ。***

11. 追加ケース:地域連携を絡めたPMF

背景

地域連携パスを意識したソリューションで、大学病院と地域基幹病院の双方に導入する必要がありました。仕様要求が異なり、どちらの病院にも合わせると負荷が増え、PMF判断が難航しました。

進め方

  • 共通部分と病院固有部分を整理し、共通モジュールとローカル設定に分割。
  • 連携病院の情報部同士に同席いただき、データ連携(HL7/FHIR)の取り決めを先に合意。
  • PoC評価指標を「共通KPI(時間外、TCO)」と「病院固有KPI(特定診療科の指標)」に分けて計測。
  • 週次で両病院の担当者を含めた短時間ミーティングを設定し、差分を早期に潰す。

結果

「共通化できる部分」と「病院ごとの最適化」を明確にしたことで、双方から「続けたい」という合意が得られました。横展開の設計図としても流用でき、以降の導入準備がスムーズになりました。

12. PMF判断のためのチェックリスト(抜粋20項目)

  1. KPIが病院の中期計画と重点診療科に紐づいているか
  2. 倫理・情報審査日がカレンダーに入り、資料が初回で提出済みか
  3. PoC評価指標が3〜5個に絞られているか
  4. 収集・計測方法が明確か(誰が、いつ、どこで)
  5. 時間外削減を週・月・年で算出できるか
  6. TCO(導入・保守・教育・運用)の見積もりがあるか
  7. 教育計画(夜勤・新人・交代勤務)が用意されているか
  8. 問い合わせ窓口とSLA(L1/L2)が決まっているか
  9. モデル更新・バージョンアップの審査手順が定義されているか
  10. データ持ち出し禁止、アクセス権限、ログ保持期間が明文化されているか
  11. 横展開プランが1枚で示されているか
  12. 撤退条件と代替フローが合意されているか
  13. 反社・利益相反チェックが済んでいるか
  14. 競合比較が「運用負荷」「教育工数」「TCO」を含んでいるか
  15. PoC終了後の稟議パッケージ(効果、リスク、サポート体制)が準備済みか
  16. 失注・差し戻し理由を記録し、次の仮説を立てているか
  17. KOLや院内チャンピオンが巻き込まれているか
  18. 患者体験(待ち時間、説明時間)を測定する設計があるか
  19. 外部委託や代理店のSLA・再委託禁止が明記されているか
  20. 「誰の時間をどれだけ減らすか」を1行で言語化しているか

13. トラブルシューティング:典型的な詰まりと打ち手

  • 詰まり:PoC結果がばらつく
    • 打ち手:入力方法とデータ収集の手順を再標準化。担当者を固定し、トレーニングを追加。
  • 詰まり:情報部からの差し戻しが続く
    • 打ち手:データフロー図とログ仕様のバージョンを共有し、更新履歴を明示。モデル更新審査のプロセスをスライド1枚で再説明。
  • 詰まり:看護部から「手間が増えた」と言われる
    • 打ち手:夜勤帯で再度観察し、不要手順を削減。マニュアルを簡略化し、問い合わせ窓口を明確に。
  • 詰まり:KPIが改善しない
    • 打ち手:評価指標を見直し、影響が出るまでの期間を再設定。別の診療科や小規模ユースケースで再テスト。
  • 詰まり:稟議が中期計画に合わないと言われる
    • 打ち手:重点診療科や病床再編とリンクさせるスライドを追加。横展開による規模効果を試算して提示。

14. 代理店や外部パートナーとのPMF連携

  • 役割分担の明確化:アウトリーチは代理店、合意形成と技術説明は自社、というように線引きを文書化。
  • 教育キットの提供:データフロー、ログ、責任分界、PoC計画、FAQをキット化し、代理店でも説明できるようにする。
  • 品質管理:週次のステージ管理と月次の同行でトークと資料を揃える。
  • 反社・再委託禁止:契約に明記し、定期レビューで確認。
  • 失注共有:代理店の失注理由も記録し、次の仮説に反映する。

15. 長期の指標:PMF後も追い続けるもの

  • 定着率:導入後6か月、12か月での利用率。
  • 再教育・問い合わせ件数:時間経過とともに減っているか。
  • 契約更新率と価格維持率:値下げせずに更新できているか。
  • 横展開速度:同グループ病院・他診療科への展開数と期間。
  • 新機能追加の要望:顧客からの要望が具体的かつ繰り返し出るなら、PMFの深まりを示す。
  • 働き方KPIの持続:時間外削減効果が維持されているか。

16. 日々のルーティン

  • 初回訪問直後に「聞けなかったこと」を3つメモし、翌日までに回収。
  • 週末に失注・差し戻しの理由を見返し、翌週に試す仮説を1つ決める。
  • 議事録を当日中にAIで要約し、関係者へ共有。
  • 病院のカフェで5分、「誰の時間を減らせたか」「どの懸念を潰せたか」を自問。
  • 中期計画や病院再編のニュースを月1でチェックし、提案に反映。

17. さいごにもう一歩

PMFは一度で終わりではなく、病院ごとに微調整が必要でした。数字と合意をセットにし、短いサイクルで検証し続けること。資料を後出しにせず、現場の時間を大切にすること。今日も院内のカフェで5分だけ振り返ります。答えが一つでもあれば、次の90日も前に進めます。
また病院へ。

追加リソース

PMF検証のテンプレートや伴走型支援の事例をLPにまとめています。評価指標の設計や導入ステップの詳細は詳しくはこちらをご覧ください。

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