医療・ヘルスケア業界特化

医療機関営業でありがちな失敗事例と回避策 — 代理店任せで頭打ちだった部長の実録

2025/11/25

医療機関営業でありがちな失敗事例と回避策 — 代理店任せで頭打ちだった部長の実録

ヘルスケアサービス企業で営業部長を務めています。代理店任せの営業が頭打ちになり、直販も思うように成果が出ず、管理も不十分。そんな状態から立て直す過程で、数え切れない失敗をしました。大阪・関西・近畿の病院を回り、支援会社や代行会社、コンサルとも組みながら医療・ヘルスケア領域の販路開拓と営業・事業開発を進めた経験をベースにしています。2024〜2025年のトレンド(医療DX・生成AI、病院再編、働き方改革、ガバナンス強化)を前提にしています。

1. 失敗事例と回避策(10選)

失敗1:審査資料の後出しで3か月遅延

倫理・情報セキュリティ審査の資料(データフロー、ログ、責任分界、PoC計画)を初回で出せず、審査サイクルを逃しました。
回避策:技術資料をテンプレ化し、初回で不足を洗い出して1週間で埋める。審査日を必ず確認し、カレンダーに登録。

失敗2:看護部の教育工数を軽視して拒否

「手順は簡単です」と説明し、夜勤帯の実務を見ずに進めて反発を受けました。
回避策:夜勤・休日シフトを見学し、教育計画を15分動画+15分ハンズオンで設計。問い合わせ窓口を明示する。

失敗3:価格勝負に逃げて赤字受注

値下げで稟議を通したものの、運用負荷とサポートコストで赤字に。
回避策:稟議資料に運用価値(時間外削減、教育工数削減、TCO低減)を入れ、回収期間を示す。価格以外の評価軸を用意する。

失敗4:代理店に丸投げしてブランド毀損

代理店任せで提案品質がばらつき、院内でクレームが発生。
回避策:代理店とSLA(応答時間、デモ機管理、報告頻度)を締結し、技術資料とトークを標準化。月次で同行とレビューを行う。

失敗5:キーマンを誤る

診療科の先生とだけ話し、情報部やMEに後から止められました。
回避策:初回で情報部/CIO、ME機器管理室、看護部、経営企画に必ず挨拶し、データ・安全・運用・KPIの視点を先に揃える。

失敗6:スケジュールの甘さで信頼を失う

「来週お送りします」と言って2週間かかり、信頼低下。
回避策:納期は余裕を持って約束し、遅れる場合は前日までに連絡と代替日を提示。小さな約束を守る。

失敗7:情報持ち出しへの配慮不足

院内資料を個人PCで持ち帰りそうになり、情報部から厳重注意。
回避策:院内貸出PCを利用し、USBは使わない。議事録も院内指定の共有手段のみで扱う。

失敗8:横展開の絵がなく「まず1病院で」止まり

単院導入の話しかなく、予算がつきませんでした。
回避策:グループ病院へのスケール手順(契約・教育・データ移行・サポート)を1枚で提示。経営企画に「今年やる理由」を作る。

失敗9:時間オーバーで会議を乱す

質疑が長引き、次の議題に迷惑をかけました。
回避策:タイムラインをスライドで示し、質疑が延びたら「持ち帰り項目」を整理して終える。

失敗10:代理店の反社チェック漏れ

反社チェックの不足で、取引見送りになりました。
回避策:代理店選定時に反社・財務・医療実績を確認し、定期レビューを実施。契約で再委託禁止やデータアクセス範囲を明文化。

2. トレンド別に強化したポイント(2024〜2025)

  • 医療DX・生成AI:監査ログと根拠提示UI、モデル更新手順を先出し。閉域網やオンプレ対応の可否を明確に。
  • 病院再編・中期計画:重点診療科(救急・循環器・脳卒中・がん)に効く効果を前面に。中期計画2025〜2027との整合を必ず明記。
  • 働き方改革:時間外削減を週・月・年で数字化し、看護部と情報部両方に刺さるメッセージに。
  • コスト圧力・TCO:保守・教育・運用負荷を透明化し、セルフメンテとリモートサポートで保守費を下げる提案をセットに。
  • ガバナンス強化:反社・利益相反・内部統制、改訂履歴の管理を明文化。資料後出しはしない。

3. 30・60・90日で立て直したステップ

0〜30日

  • キーマンマップと審査スケジュールを院別に整理。
  • 技術資料(データフロー、ログ、更新ポリシー、責任分界)とPoCテンプレを標準化。
  • 代理店のSLAと報告フォーマットを整備し、反社チェックを更新。

31〜60日

  • 上位病院でPoCを3件合意。評価指標(時間削減・安全性・TCO・患者体験)を決定。
  • 生成AIで提案初稿・議事録要約を回し、週次で詰まりを潰す。
  • 代理店同行を増やし、トークと資料を現場で磨く。

61〜90日

  • PoC結果を稟議セットに格納し、回収期間と運用価値を提示。
  • L1/L2サポート、教育・再教育、リリース管理、障害時フローを文書化。
  • グループ病院への横展開プランを提示し、追加予算と人員を確保。

4. トークスクリプト(相手別)

  • 情報部/CIO向け:「データは院内閉域で完結し、ログは10年保存。モデル更新は四半期ごとの審査を経て実施します。責任分界はこちらです。」
  • ME/臨床工学向け:「既存機器と干渉しないテスト計画とリモートサポート手順を用意しました。一次対応は弊社、二次対応は専門チームです。」
  • 看護部向け:「夜勤帯の入力を週○時間削減できます。初回教育1時間、夜勤向け再教育15分、問い合わせ窓口は平日+オンコールで対応します。」
  • 経営企画・事務長向け:「時間外削減と在院日数への影響を試算し、回収期間は○か月です。重点診療科で先行導入し、グループ病院に横展開するプランです。」

5. 代理店との付き合い方(頭打ちから再成長へ)

  • SLAの明文化:応答時間、デモ機管理、報告頻度、再委託禁止、データアクセス範囲を契約に盛り込む。
  • 週次の情報共有:案件ステージ、リスク、次アクションを共有し、トークと資料を標準化。
  • 同行とフィードバック:月1〜2回同行し、良かった点と改善点を即共有。
  • 表彰とペナルティ:成果に応じたインセンティブと、重大違反時のペナルティを事前に合意。
  • 教育キットの提供:技術資料、FAQ、ログの説明方法、倫理・情報審査の流れをまとめたキットを配布。

6. よくある質問(Q&A)

Q:どこから回ればいいですか?
A:情報部とME機器管理室を早めに巻き込むと後工程が早くなります。看護部・薬剤部は運用負荷を握るのでPoC前に必ず面談します。
Q:価格を下げれば早く通りますか?
A:短期的には通るかもしれませんが、運用負荷と保守コストで赤字になりがちです。運用価値を数字で示し、回収期間を提示する方が健全です。
Q:失注したら何を残すべきですか?
A:差し戻し理由、部門別の懸念、資料不足、スケジュールのボトルネックを記録し、次の初回訪問で埋めるリストを作ります。失注直後に次の病院の予定を入れると勢いが切れません。

7. 日々のルーティン

  • 初回訪問直後に「聞けなかったこと」を3つメモし、翌日までに回収。
  • 週末に失注・差し戻しの理由を見返し、翌週試す仮説を1つ決める。
  • 議事録を当日中にAIで要約し、関係者へ共有。
  • 病院のカフェで5分、「誰の不安を減らせたか」を自問。
  • 代理店のSLAと実績を月次でレビューし、改善策を合意。

8. まとめ

失敗は必ず起きますが、記録し、仕組みで潰せば再現性が生まれます。資料後出しをやめ、キーマン合意を先に取り、運用価値を数字で示す。それだけで審査の遅延と価格競争の泥沼から抜け出せました。今日も院内のカフェで5分だけ振り返ります。「誰の時間を減らせたか」「どの懸念を潰せたか」。答えが一つでも浮かべば、次の訪問は前に進みます。また病院へ。***

9. ケーススタディ:失敗から再起までの2例

ケースA:情報セキュリティ審査で差し戻し

初回でデータフローとログ仕様を出せず、審査サイクルを逃して3か月遅延。再訪問で情報部と倫理委員会に同席いただき、データ分類、保存場所、アクセス権、モデル更新、責任分界を明文化。1週間で不足資料を提出し、次の審査で通過。資料後出しがいかに致命傷かを痛感しました。

ケースB:代理店の不適切対応

代理店が院内ルールを守らず、看護部からクレーム。SLAに反社・再委託禁止、データアクセス範囲を明文化し、研修を実施。週次報告と月次同行をセットにして、3か月でクレームゼロに。代理店はパートナーであり、契約と教育で品質を揃えることが重要でした。

10. チェックリスト(50項目の抜粋15)

  1. 倫理・情報審査の開催日を初回で確認したか
  2. データフロー、ログ、責任分界、更新ポリシーを初回で提示できるか
  3. PoCの目的・期間・評価指標・撤退条件を明文化したか
  4. 中期計画と重点診療科に紐づけたか
  5. 時間外削減と回収期間を数字で示したか
  6. 教育計画(夜勤・新人)と問い合わせ窓口を提示したか
  7. 反社チェックを代理店含め実施したか
  8. SLA(応答時間、報告頻度、再委託禁止、データアクセス範囲)を結んだか
  9. デモ機の設置・回収・清掃手順を明文化したか
  10. 資料後出しにならないよう事前送付をしたか
  11. 持ち時間と質疑時間を事務局と合意したか
  12. 代替フローと障害時対応を説明したか
  13. 横展開プランを1枚で示したか
  14. 失注・差し戻し理由を記録し、次の仮説を準備したか
  15. 「誰の時間を減らすか」を一言で言えるか

11. 2024〜2025トレンド別ワンポイント

  • 生成AI:監査ログ、根拠提示UI、モデル更新審査を先出し。データ持ち出し禁止設定も明記。
  • 病院再編:グループ横展開の標準プロトコルと教育キットを提示し、「今年やる理由」を中期計画と結びつける。
  • 働き方改革:時間外削減を週・月・年で数字化し、看護部と情報部の双方に刺さるメッセージに。
  • コスト圧力:セルフメンテとリモートサポートで保守費を抑える案をセットで。
  • ガバナンス:反社・利益相反・内部統制への対応を明文化し、資料後出しをしない。

12. 追加の一言メモ

・約束した期限は短めに、実際は余裕を持つ。守れない約束は最初からしない。
・「簡単です」は禁句。具体的な手順と時間を示して安心していただく。
・失注連絡をもらった直後に、次の訪問予定を入れる。勢いを切らさない。
・資料は1セットで全員分(情報、ME、看護、経営企画、購買)を用意し、後出しをゼロにする。
・病院のカフェで飲むコーヒーは、高価な広告より信頼を生むと信じている。***

13. 30・60・90日プランの細部(チェック付き)

0〜30日

  • 審査資料テンプレをアップデート(データフロー、ログ、更新ポリシー、責任分界)。
  • 全病院の倫理・情報審査日をカレンダー化し、警告を設定。
  • 代理店SLAの改訂案を作成し、週次共有会の議事テンプレを用意。
  • キーマンマップを病院ごとに描き、部署名・氏名・懸念をメモ。

31〜60日

  • PoCを3件動かし、評価指標の進捗を週次で可視化。
  • 生成AIで提案初稿・議事録要約を自動化し、ドキュメント版を情報部に共有。
  • 看護部・情報部との10〜15分定例を設定し、教育・セキュリティ懸念をその場で潰す。
  • 代理店同行を月2回以上設定し、トークとデモの品質を揃える。

61〜90日

  • PoC結果を稟議セットに格納し、回収期間と働き方効果を数字で示す。
  • L1/L2サポート体制と代替フローを文書化し、問い合わせ窓口を1枚にまとめて配布。
  • グループ病院への横展開プラン(契約・教育・データ移行・サポート)を提示し、追加予算確保。
  • 失注・差し戻しログをレビューし、次期の提案テンプレを改訂。

14. 代理店との実務オペレーション改善

  • 週次報告のフォーマット化:案件ステージ、リスク、次アクション、必要資料、責任者を5項目で報告。
  • デモ機管理の共通カレンダー:貸出・回収・清掃・保守を登録し、滞留を防止。
  • インシデント報告のSLA:24時間以内に一次報告、72時間以内に再発防止策を提出するルールを設定。
  • 合同研修:月1回、キーマンマップの更新とトークのロールプレイを実施。
  • 表彰・ペナルティ:コンプライアンス遵守と成果に対しインセンティブ、重大違反には契約上のペナルティを明記。

15. 失注を「次の勝ち筋」に変える手順

  • 即時記録:失注理由、差し戻し項目、部門別の懸念、審査スケジュール上のボトルネックを当日中に記録。
  • 仮説化:次の病院で試す改善策を3つ書き出す。
  • テンプレ更新:提案書とPoC計画の該当箇所を修正し、チームに共有。
  • 次アポ確保:落ち込む前に、次の病院の初回面談日を入れる。
  • 相談:情報部や看護部に「何が足りなかったか」を率直に聞き、フィードバックを反映。

16. さいごにもう一歩だけ

営業部長として、失敗は避けられませんでした。それでも、記録し、仕組みで潰し、次に試す。この繰り返しで遅延も価格競争も減りました。今日も院内のカフェで5分だけ振り返ります。「誰の時間を減らせたか」「どの懸念を潰せたか」。答えが一つでもあれば、次の訪問は必ず前に進みます。
また病院へ。

17. 最後のメモ

  • 「もう一人同席させてください」は必ず事前に相談。
  • 期限は短く約束し、余裕を持って提出する。
  • コーヒー1杯の時間を、次の改善アイデアに使う。
  • 失敗談をチームで共有すれば、次の誰かの失敗を未然に防げる。
  • 次の病院でも、「誰の時間をどれだけ減らせるか」を最初に伝える。

追加リソース

失敗を減らす仕組みづくりや伴走型支援の進め方はLPで詳しく紹介しています。稟議セットやSLA例は詳しくはこちらからご覧ください。

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