医療・ヘルスケア業界特化

医療業界特有の営業マナーとルールまとめ — 現場で信頼を失わないために

2025/11/25

医療業界特有の営業マナーとルールまとめ — 現場で信頼を失わないために

医療・介護領域のコンサルとして、病院と介護施設を長年担当しています。医療業界のマナーは「暗黙の了解」が多く、知らずに踏み外すと一瞬で信頼を失い、その後の関係回復に時間がかかります。ここでは、私自身の失敗と学びをもとに、大学病院や大規模病院で営業する際のマナーとルールを整理しました。大阪・関西・近畿での経験を基に、支援会社や代行会社、コンサルが関わるケースにも触れながら、営業・事業開発・販路開拓の現場に役立つ内容をまとめています。2024〜2025年のトレンド(ガバナンス強化、医療DX・生成AI、病院再編、働き方改革)を踏まえ、最新の注意点も盛り込みます。

1. 訪問アポイントと受付での基本

  • 事前連絡の徹底:訪問は必ず事前に日時と用件を共有し、当日の同行者も明記します。同行者変更は直前でも連絡します。
  • 身分証と名刺:受付で身分証提示を求められるケースが増えました。名刺は感染対策で受け渡しを控える施設もあるので、事前に電子名刺も用意します。
  • 進行ルールの確認:会議室利用、写真撮影禁止、録音禁止、Wi-Fi利用可否など、受付で必ず確認。勝手な記録は厳禁です。

2. 面談時のマナーとNG行為

  • 時間厳守:開始・終了時刻を守る。延長が必要な場合は、終了5分前に可否を確認します。
  • 服装と衛生:クールビズの範囲でも清潔感を優先。白衣エリアでは手指消毒、必要に応じて着替えや帽子着用。香水や強い整髪料は避けます。
  • 電子機器の扱い:PC持ち込み可否、院内Wi-Fi利用の可否を確認。USBメモリは基本使用不可。デモ機は事前に承認を取り、滅菌や清拭ルールに従います。
  • 録音・撮影の禁止:議事録目的でも録音は避け、必要なら事前に許可を書面で取ります。
  • 情報の取り扱い:患者情報や院内情報を聞いても記録しない。議事録は個人が特定されない形でまとめ、共有範囲を合意します。

3. 持参資料と伝え方のポイント

  • 最小限で要点を:部数は必要分だけ。紙資料は回収の有無を確認し、紙を残さない方針の病院では電子送付に切り替えます。
  • データフローと責任分界を先出し:医療DXや生成AIを含む場合、データ経路・ログ・更新手順・責任分界を冒頭で示すと安心されます。
  • ワークフロー図を丁寧に:看護部や臨床工学は運用のリアルを見ています。夜勤や新人教育を含めたフロー図を用意します。
  • 費用対効果を数字で:時間削減→人件費換算、回収期間、TCO(導入・保守・教育・運用)を明示します。

4. 許可・承認が必要な行為

  • デモ機持ち込み・設置:ME機器管理室や臨床工学の許可を得て、設置条件と清拭手順を確認。勝手な電源利用は厳禁。
  • 機器の電源投入・院内ネット接続:情報部の許可が必須。閉域網や検証用ネットワークを案内された場合は、指示に従います。
  • 試供品・サンプル提供:薬剤部や看護部、倫理委員会の許可が必要なケースがあります。提供数・期間・回収方法を明記します。
  • 院内撮影・図面持ち出し:書面承認がない限り実施しない。図面や配置情報も同様です。

5. 言葉遣いと立ち振る舞い

  • 役職よりも敬意を優先:先生、看護部長、技士長など敬称を正しく。若手でも「○○さん」「□□先生」と呼び、フラットな口調を避けます。
  • 遮らない・被せない:発言を遮ると強い不快感を与えます。質問は相手が話し終えてから。
  • 専門用語のすり合わせ:医療用語とIT用語の解釈差がある場合は図で確認します。
  • 謝罪と修正を迅速に:ミスや遅延があれば、その場で謝意を示し、修正計画と期限を伝えます。

6. 情報セキュリティとコンプライアンス

  • デバイス管理:個人PCやUSBは禁止の施設が多い。貸出端末や院内用アカウントの利用に従います。
  • ログとアクセス権:誰が何を見られるかを明示。監査ログの保存期間と閲覧権限を示します。
  • モデル更新とデータ学習:生成AIを含む場合、院内データを学習に使わない設定、更新審査とロールバック手順を説明します。
  • 反社・利益相反:反社チェック、利益相反、贈答・接待の禁止を徹底。金銭・物品提供は病院の規定に従い、グレーな提案はしない。

7. 働き方改革と現場負荷への配慮

  • 時間外削減を意識したアポ取り:朝の申し送り直後、夕方の業務終了間際を避け、休憩時間を侵食しない。
  • 短時間で目的を達成:15〜30分で終えられるアジェンダを用意し、不要な説明を省く。
  • 教育負荷を減らす:初期教育を短く、再教育・新人教育をオンデマンドで提供。問い合わせ窓口を明確にし、夜勤向けのサポートも準備します。
  • 心理的安全性:インシデントや課題を共有いただいた際は否定せず、感謝を伝え、改善案を提案します。

8. 2024〜2025の最新トピックとマナー

  • 病院再編:再編前後で人事や体制が変わるため、役職名を確認し、古い呼称を使わない。
  • AI倫理と透明性:説明責任を果たすため、根拠提示UIと監査ログを前提に話す。
  • 紙から電子への移行:紙配布禁止の病院が増えています。電子配布と事前送付を基本に。
  • リモート会議の増加:録画の可否、チャットログの扱いを事前に確認し、不要な録画はしない。

9. よくある失敗と回避策

  • 倫理・情報審査の資料不足で差し戻し:データフロー、ログ、責任分界、PoC計画をテンプレ化し、初回で出せるようにします。
  • 看護部の教育工数を軽視して拒否:夜勤帯の業務を見学し、教育計画を一緒に作ると態度が変わります。
  • 勝手な撮影・録音で信頼を失う:許可があっても、再度その場で確認し、不要なら行わない。
  • 時間オーバー:事前に時間配分を決め、質疑が長引く場合は持ち帰り項目を整理して終了します。
  • 名刺切れや資料忘れ:予備を携帯し、電子版も用意しておくと安心です。

10. チェックリスト(抜粋20項目)

  1. 訪問日時・同行者を事前連絡したか
  2. 受付でのルール(撮影・録音・Wi-Fi・PC持ち込み)を確認したか
  3. デモ機持ち込みの許可を取得したか
  4. 資料は必要部数と電子版を用意したか
  5. データフロー・ログ・責任分界・PoC計画を初回で提示する準備があるか
  6. 持ち時間と質疑時間を事務局と合意したか
  7. 教育計画(夜勤・新人向け)と問い合わせ窓口を明確にしたか
  8. 時間外削減を数字で示せるか
  9. 反社・利益相反・贈答ルールを確認し、遵守したか
  10. 役職名と呼称を最新にアップデートしたか
  11. 録音・撮影の可否を確認し、不要なら行わないか
  12. 議事録の共有範囲と方法を合意したか
  13. 横展開プランを1枚で示せるか
  14. 中期計画と重点診療科に沿った効果を説明できるか
  15. TCO(導入・保守・教育・運用)を説明できるか
  16. 代替フローと障害時対応を提示したか
  17. 事前送付が可能なら48時間前に資料を送ったか
  18. 持ち帰り項目と次回日程を決めたか
  19. 名刺・身分証を携帯したか
  20. 「誰の時間を減らすか」を一言で言えるか
    ※実際は50項目で運用しています。

11. 日々のルーティン

  • 初回訪問後、5分で「聞けなかったこと」を3つメモし、翌日までに回収。
  • 週末に失注・差し戻しの理由を見返し、改善策を翌週に試す。
  • 議事録を当日中にまとめ、個人が特定されない形で共有。
  • 病院のカフェで5分、「誰の不安を減らせたか」を自問。
  • 職員の呼称や体制変更を月1でアップデート。

12. さいごに

医療業界のマナーは、相手への敬意と時間の尊重がすべてです。小さな約束を守り、資料を後出しにせず、懸念を先に潰す。地道な積み重ねが信頼を作ります。今日も院内のカフェで短く振り返ります。「誰の時間を減らせたか」「どの懸念を潰せたか」。答えが一つでもあれば、次の訪問はきっと前進します。***

13. ケーススタディ:信頼を失った瞬間と取り戻すまで

ケース1:無断撮影で出禁寸前

新任メンバーが設置前に写真を撮り、看護部から厳しく注意されました。即座に謝罪し、写真を削除。再発防止策(撮影は原則禁止、必要時は事前申請・当日再確認)を文書化し、事務局と看護部に説明。2週間の訪問自粛を経て再開できました。謝罪と手順明文化が最短でした。

ケース2:時間超過で会議進行を妨げる

プレゼンが長引き、次の議題に影響したことがあります。事務局から厳重注意。以降、タイムラインをスライド1枚で示し、進行役を社内で決め、質疑が長引く場合は「持ち帰り項目」に移すように。時間を守る会社として見直されました。

ケース3:名刺切れで信頼を落とす

名刺を忘れ、電子名刺で代用したものの、反社チェック用に現物を求められ困りました。以後、名刺・身分証・会社概要を予備ケースに入れて常備。小さな準備不足が不信を招くと痛感しました。

ケース4:教育工数を甘く見て拒否される

「簡単です」の一言で看護部が納得せず、導入が止まりました。夜勤帯を見学し、教育を15分動画+15分ハンズオンに再設計。問い合わせ窓口も明示し、再訪で承認を得ました。「簡単」は現場を見てから使うと決めました。

ケース5:情報セキュリティ審査で差し戻し

データフロー最新を持参せず、審査が1サイクル遅れました。技術資料をバージョン管理し、初回で不足を洗い出し、1週間で埋める運用に変更。次の案件では90日以内に審査通過できました。

14. 追加チェックリスト(さらに15項目)

  1. 院内ネット接続のMACアドレス登録を確認したか
  2. 荷物搬送・デモ機搬入の動線を確認し、エレベータ優先ルールを守ったか
  3. 感染対策(手指消毒、マスク、ガウンなど)を施設ルールに従ったか
  4. 廃棄物の持ち帰り・処理方法を確認したか
  5. 試供品・サンプルの数量と回収計画を明記したか
  6. 委員会議事録に名前が残る場合の共有範囲を確認したか
  7. 電源タップや延長コードの使用許可を得たか
  8. 会議室のレイアウトを元に戻して退出したか
  9. 競合に関する質問が出た際、公正に回答したか
  10. 個人の連絡先をむやみに聞かず、代表窓口を通したか
  11. 追加資料・Q&Aを約束した期限内に送付したか
  12. モデル更新やバージョンアップ時の周知方法を説明したか
  13. クレームやトラブル報告への一次回答を24時間以内に行ったか
  14. 病院の文化・慣習(靴の履き替え、エレベータ優先など)を事前に調べたか
  15. 自社メンバーへの医療マナー研修を定期的に行ったか

15. 2024〜2025の法規制・ガイドライン動向(概要)

  • 医療DX推進でクラウド活用ガイドラインが整備され、閉域網・暗号化・ログ管理・モデル更新審査の要件が明確になりつつあります。最新版を確認します。
  • 個人情報・匿名加工・仮名加工の線引きが曖昧になりやすく、情報部と定義をすり合わせることが重要です。
  • 反社チェックや利益相反の厳格化が進んでおり、会社情報や取引実績の事前準備が求められます。
  • 働き方改革関連で時間外削減KPIが厳格化。提案の効果を数字で示す必要性が高まっています。

16. 日常で意識している小さな習慣

  • 訪問前に院内ニュースやプレスリリースを確認し、体制変更を把握。
  • 会議前に深呼吸をし、意識的にゆっくり話す。
  • 相手の発言を要約して確認する(アクティブリスニング)。
  • 名刺交換時に目的を一言添え、ゴールを再共有。
  • 帰り道で「良かった点」「改善点」を2行ずつメモし、翌週の動きに反映。
  • 社内メンバーに最新の院内ルールやマナーを週次で共有。

17. まとめ

医療業界特有のマナーとルールは、相手の時間と安全を守るためのものです。小さな準備と確認で、信頼を失うリスクを大きく減らせます。言葉よりも行動と準備が信頼をつくると実感しています。今日も院内のカフェで5分だけ振り返ります。「誰の時間を減らせたか」「どの懸念を潰せたか」。答えが一つでも浮かべば、次の訪問はもう少しうまくいくはずです。***

18. 参考にしている社内テンプレと研修

  • 訪問前チェックリスト(50項目):全員が同じ品質で訪問できるよう、出発前に必ず確認。
  • 技術資料テンプレ:データフロー、ログ仕様、責任分界、PoC計画を1冊にまとめたもの。初回訪問に必携。
  • 医療マナーeラーニング:新人向けに30分で受講できる教材を用意し、月1でアップデート。
  • 失注レポート集:差し戻しや失注理由と改善策を共有し、次の訪問で同じミスを繰り返さない。
  • 言い換え集:「簡単です」→「ここが難所ですが、こう解消します」「すぐ終わります」→「15分で終えますので、時間配分はこちらです」など、誤解を生みにくい表現に置き換える。

これらの地味なテンプレと研修が、結果的に一番効きました。
明日もまた、病院の廊下を歩きます。次に会う誰かの時間を少しでも守れるよう、今日の学びをリストに書き足して出発します。***

19. 最後の一言メモ

・病院の時計はいつも少し早く進んでいるつもりで行動する。
・「もう一人いるので同席させてください」は、必ず事前に相談してから。
・困ったときほど、事務局と看護部に正直に相談する。助けていただいた回数が信頼に変わる。
・帰り道に見上げる病院の窓を見ると、そこで働く人の時間を守る責任を思い出す。
また病院へ。***

追加リソース

医療業界特化の伴走型営業支援やマナー研修、資料テンプレはLPにまとめています。短時間で確認したい方は詳しくはこちらをご覧ください。

医療業界は参入障壁が高い一方で、
大きな成長市場です。
ただし、独力での突破には
限界があります。
まずはお気軽に
ご相談ください

私たちは、医療・ヘルスケア業界で
よい商品・サービスを
必要とする現場に
確実に届けるためのパートナーです。