「病院の電気代、去年の1.5倍になってるぞ。なんとかしろ!」 理事長に怒鳴られて、頭を抱えている事務長さん。最近よく見かけます。 MRI、CT、24時間稼働の空調、生命維持装置……。 病院は「エネルギーの塊」のような場所です。 電気を止めるわけにはいかない。でも、燃料費高騰(サーチャージ)が経営を直撃している。
はじめまして。元・産業機械メーカーで工場省エネを担当していた、石田満です。 今はヘルスケア事業部で、病院向けの設備提案をしています。 工場のおっちゃんたちと「1円でも電気代を下げる戦い」をしてきた私から見ると、病院のエネルギー管理は、正直「ザル」です。 宝の山(削減余地)が眠っています。
そこに今、「再生可能エネルギー(太陽光など)」という波が来ています。 「環境にいいことしましょう」という綺麗事ではありません。 「再エネを入れないと、病院経営が詰む」という、極めてシビアな経済合理性の話です。 本記事では、私の得意分野である「泥臭いコスト削減」の視点から、病院が再エネを導入すべき本当の理由と、失敗しない導入ステップについて解説します。
第1章:なぜ今、病院が「発電所」になるべきなのか?
1. 電気代高騰に対する「自衛策」
電力会社から電気を買うモデルには、限界が来ています。 世界情勢を見れば、化石燃料の価格は高止まりし、再エネ賦課金も上がり続けるでしょう。 「買うより作る方が安い(グリッドパリティ)」時代が到来しました。 屋根に太陽光パネルを載せて、自家消費する。 これが、外部要因(原油価格)に左右されない、最強のヘッジ(自衛)になります。 「電気代という変動費」を「設備投資という固定費」に変える経営判断です。
2. BCP(災害対策)としての最後の砦
Article 51でもありましたが、災害時に電気が止まったら病院は終わりです。 非常用発電機はありますが、重油が尽きたら? 道路が寸断されてタンクローリーが来なかったら? そこで太陽光発電です。 太陽さえあれば電気が出る。 これに蓄電池を組み合わせれば、昼間の電気で夜も凌げる。 「エネルギーの自給自足」こそが、究極のBCPです。 この安心感は、お金には代えられません。
3. ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)への補助金
国は今、建物の省エネ化(ZEB化)に巨額の補助金をばら撒いています。 新築や建て替えの際、一定の省エネ基準と創エネ(太陽光)を導入すれば、建築費の半分近くが補助されることもあります。 「再エネは高い」というのは昔の話。 「補助金を使えば、実質タダで発電所が手に入る」というのが今の常識です。 この情報を知っているかいないかで、数億円の差が出ます。
第2章:導入のハードルと乗り越え方 ~「工場」の知恵を病院へ~
しかし、病院特有の難しさもあります。
1. 屋根の防水問題
「屋根に穴を開けて、雨漏りしたら誰が責任取るんだ?」 古い病院では必ず言われます。 工場では「重ね式折板屋根」などで穴を開けずに設置する工法が一般的です。 また、私たちは「屋根借り(PPA)」モデルも提案します。 事業者が屋根を借りてパネルを設置し、メンテナンスも事業者が行う。 病院は「できた電気を買う」だけ。 これなら、初期投資ゼロ、メンテフリー、雨漏り保証付きです。 「面倒なことは全部やります」というPPAモデルが、今の主流です。
2. 電力品質(電圧変動)への懸念
「太陽光を入れると電圧が不安定になって、精密医療機器が壊れないか?」 臨床工学技士さんからの鋭い質問です。 確かに、昔のパワーコンディショナ(変換器)はノイズを出すことがありました。 しかし、最新の機種は医療機器のEMC規格(電磁両立性)をクリアしています。 さらに、重要な機器の系統と、照明・空調の系統を分ける(ゾーニングする)ことで、リスクを完全に遮断できます。 この「配線設計」ができるかどうかが、プロの腕の見せ所です。
3. 景観と反射光トラブル
「近隣住民から『パネルが眩しい』とクレームが来ないか?」 病院は住宅街にあることが多いので、この配慮も必要です。 防眩仕様のパネルを使う、設置角度を調整する。 私たちは事前に「反射光シミュレーション」を行い、「何月何日の何時に、どのお宅に光が当たるか」まで計算して、住民説明会に行きます。 そこまでやって初めて、地域に愛されるエコ病院になれます。
第3章:再エネだけじゃない!「省エネ」の即効薬
再エネ(創る)の前に、省エネ(減らす)が必要です。 穴の空いたバケツに水を入れても意味がありません。
1. 「空調」のチューニング
病院のエネルギー消費の4割は空調です。 しかし、多くの病院で「オーバースペック(効きすぎ)」になっています。 インバータ制御を入れる、外気導入量をCO2濃度に応じて調整する。 これだけで電気代は2割下がります。 「快適性を損なわずに、無駄だけ削る」。工場の改善ノウハウが一番活きる分野です。
2. 照明のLED化と「調光」
まだ蛍光灯を使っている病院があれば、それは現金をドブに捨てているのと同じです。 LEDに変えるだけで電気代半分。さらにセンサー調光を入れれば、人がいない廊下は暗くできます。 「初期費用がない? リース契約なら月々の削減分で払えますよ。キャッシュアウトなしです」 この提案で断られたことはありません。
3. 未利用熱(排熱)の利用
ボイラーの蒸気、MRIの冷却水。 病院は熱を大量に捨てています。 ヒートポンプを使って、この排熱を給湯(お風呂や手洗い)に再利用する。 サーマルリサイクルです。 「捨てている熱で、温かいお湯を作る」。 これも工場では当たり前の技術ですが、病院ではまだブルーオーシャンです。
第4章:営業マンが語るべき「ストーリー」
スペックやコストの話だけでは、理事長の感情は動きません。 「なぜ再エネか」という物語が必要です。
ストーリー1:環境先進病院としてのブランディング
「SDGsに取り組んでいる病院」として、地域や若手求職者にアピールできます。 今の医学生や看護学生は、環境意識が高い。 「屋上にソーラーパネルが輝く、エコな病院で働きたい」。 採用パンフレットに一行書けるだけで、採用コストが下がるなら、安い投資です。
ストーリー2:地域への還元
「余った電気は、地域の避難所に供給します」。 災害時、病院だけでなく、近隣住民のスマホ充電スポットとして開放する。 これにより、病院は本当の意味での「地域のライフライン」になります。 「電気を売って儲ける」のではなく「電気を地域にシェアする」。 この公益性の高いストーリーは、自治体からの補助金を引き出す際にも有利に働きます。
第5章:明日から使えるアクション・チェックリスト
あなたの病院、ここをチェックしてみてください。
- [ ] 直近1年間の「電気料金明細(デマンド値)」を入手したか?
- [ ] 屋上の空きスペース(防水状況、日当たり)をGoogle Earthで確認したか?
- [ ] 地域の「日照時間データ」から、推定発電量をシミュレーションしたか?
- [ ] 補助金(環境省・経産省・自治体)の公募スケジュールを把握しているか?
- [ ] 「PPAモデル(初期投資ゼロ)」の提案書を持っているか?
【実録】ケーススタディ:雪国病院の地熱利用
北海道のI総合病院の事例
【課題】 冬場の暖房費(重油代)が経営を圧迫。 積雪があるため、太陽光パネルの設置は効率が悪い。
【提案内容】 「地中熱ヒートポンプ」の導入。 地下100mの温度は、年間を通して一定(約15℃)です。 夏は外より涼しく、冬は外より暖かい。 この熱を汲み上げて空調に利用するシステムを提案。 さらに、駐車場の融雪(ロードヒーティング)にも排熱を利用。
【結果】 重油使用量を60%削減。CO2排出量も半減。 灯油の臭いがしなくなり、空気もきれいに。 「足元から暖かい」と患者さんからも好評で、まさに「大地の恵み」を活用した病院としてメディアにも取り上げられた。
よくある質問(FAQ)
Q. 太陽光パネルの寿命は? A. 一般的に20~30年です。パワーコンディショナは10〜15年で交換が必要です。これらの交換費用も含めて収支計画(IRR)を組む必要があります。「売りっぱなし」ではなく、20年の長期保守契約をセットにするのが誠実な提案です。
Q. 蓄電池は入れた方がいいですか? A. BCP(災害対策)重視なら必須です。コスト削減(ピークカット)目的なら、投資対効果を見極める必要があります。最近はEV(電気自動車)を蓄電池代わりに使う「V2H (Vehicle to Home)」も人気です。救急車や往診車をEVにして、夜間は病院の電源にするのです。
Q. テナントビルに入っているクリニックでも導入できますか? A. 屋根の権利がないので難しいですが、「非化石証書」付きのプランに切り替えることで、実質再エネ100%電気を使うことは可能です。「当院はグリーン電力を使用しています」というステッカーを貼ることで、環境意識の高さをアピールできます。
Q. 病院の屋上に「小型風力発電」は置けますか? A. お勧めしません。風車は低周波音や振動を出します。入院患者さんが眠れなくなったり、精密機器(MRIなど)に振動が伝わって画像がブレたりするリスクがあります。病院は「静寂性」が命なので、静かに発電する太陽光か地中熱がベストミックスです。
現場で使える!重要用語解説
- PPA (Power Purchase Agreement):
- 電力販売契約。第三者が敷地内に発電設備を設置し、電気を売るモデル。初期費用ゼロ、オフバランス(資産計上しない)で導入できるため、病院や自治体で主流になっている。
- デマンド値:
- 30分ごとの平均使用電力の最大値。このピーク値によって、1年間の基本料金が決まる。この「最大瞬間風速」を抑えること(ピークカット)が、節電のキモ。
- ZEB (Net Zero Energy Building):
- 省エネと創エネで、年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロになるビル。ランクがあり、Nearly ZEB、ZEB Readyなど、達成度に応じて補助金額が変わる。
コラム:エネルギーは「血流」だ
工場の機械も、病院のMRIも、電気がなければただの鉄の塊です。 血管(電線)を流れる血液(電気)を、いかにサラサラにするか。 いかに外部(電力会社)からの輸血に頼らず、自家造血(発電)するか。
私が提案しているのは、単なる設備工事ではありません。 病院という巨大な生命体の「体質改善」です。 「石田さんのおかげで、浮いた電気代で新しいCTが買えたよ」 そう言われた時、私は工場時代とは違う、命を支える手応えを感じます。
あなたの病院の脈(エネルギーフロー)、一度測ってみませんか? きっと、もっと健康になれるはずです。
大きな成長市場です。
ただし、独力での突破には
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