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【完全版・詳細解説】院内感染対策ソリューションの提案ポイント

2026/02/20

【完全版・詳細解説】院内感染対策ソリューションの提案ポイント

「感染症が出た。病棟閉鎖だ」 この言葉を聞くと、病院経営者は震え上がります。 新規入院のストップ、外来の制限、風評被害。 病院にとって院内感染(クラスター)は、医療の問題である以前に、経営の根幹を揺るがす「事業停止リスク」そのものです。

こんにちは。医療用ベッドメーカーの佐藤大介です。 コロナ禍以降、私たちへの相談内容はガラリと変わりました。 「寝心地のいいベッド」よりも「拭きやすいベッド」を。 「温かみのあるカーテン」よりも「使い捨てできるカーテン」を。 感染対策は、今や最大の購買決定要因(KBF)です。

しかし、多くの営業マンは「うちの空気清浄機は高性能です」といった機能売りしかできていません。 現場が求めているのは、機械のスペックではなく、「感染経路をどう断つか」という運用レベルの解決策(ソリューション)です。 本記事では、ゾーニングから清掃オペレーションまで、現場に即した「本当に効く」感染対策提案の極意を解説します。


第1章:空気・接触・飛沫 ~見えない敵を可視化する~

感染対策の基本は「経路遮断」です。営業マンは、自社製品がどの経路(ルート)に作用し、どの程度のリスクを下げるのかを、解剖学的に説明する必要があります。

1. ゾーニング(区分け)の提案

  • 現場の悩み: 「個室が足りない」。これがどの病院でも共通の悩みです。コロナ禍では、4人部屋で1人が発症すると、同室者が全員濃厚接触者になり、病棟機能が麻痺しました。
  • ソリューション: 建物を壊さなくても、「空間」は作れます。簡易的な陰圧装置(ヘパフィルター付き排気ユニット)と、ビニールパーティションを組み合わせることで、4人部屋のベッド1床だけを「隔離ブース」に変える提案が有効です。「今ある病室を、工事不要で感染症室に変えられます」というスピード感が喜ばれます。

2. 「接触感染」の盲点をつく

  • ハイタッチ・サーフェイス: ドアノブ、エレベーターのボタン、ベッドの柵。これらは「ウイルスの運び屋」です。
  • 非接触の進化: 以前は抗菌シールなどが主流でしたが、今は「そもそも触らない」が正解です。
    • 製品例: 足踏み式のゴミ箱、センサー式の水栓はもちろん、「アームハンドル(肘で開けられるドアノブ)」や「フットスイッチ付き電動ベッド」が爆発的に売れています。
    • トーク: 「看護師さんの手は、患者さんの命に触れる手です。その手を、汚染されたドアノブに使わせていいのですか?」と問いかけてください。

3. 空気の流れ(気流)をデザインする

  • ただの換気は危険: 窓を開ければいいというものではありません。風下(かざしも)に患者がいたら、ウイルスを撒き散らすことになります。
  • 科学的アプローチ: 私たちは空調メーカーと提携し、病室内の「気流シミュレーション(CFD解析)」を行っています。「エアコンの風がここから当たると、飛沫が廊下に漏れます。サーキュレーターをここに置いて、気流の壁(エアカーテン)を作りましょう」といった、目に見える形でのコンサルティングが、機器販売の強力なフックになります。

第2章:人手不足時代の「省力化」感染対策

看護師さんは常に忙殺されています。「1時間に1回、消毒液で手すりを拭いてください」という提案は、現場を無視した暴論です。「いかに拭かないか(手間を減らすか)」が、令和の感染対策のキーワードです。

1. 清掃・消毒ロボットの導入

  • ROI(費用対効果): 紫外線(UV-C)照射ロボットは1台数百万円しますが、計算すれば安いです。
  • 試算: 「清掃スタッフを1人雇うと、人件費は年間300万円かかります。このロボットは5年リースで月額5万円(年60万円)。つまり、人間を雇うより240万円もコストダウンになります。しかも、人間と違って拭き残しがなく、文句も言わず、24時間働きます」
  • 反応: この「人件費との比較」を提示すると、事務長は即座に稟議書を書き始めます。

2. ディスポーザブル(使い捨て)化の加速

  • トレンド: かつてはコスト削減のために「リネン(シーツやガウン)は洗濯して再利用」が常識でしたが、今は逆です。
  • メリット: 洗濯業者(リネンサプライ)への搬出入の手間、在庫管理、そして何より「このシーツ、本当に綺麗なの?」という不安。これらを一掃できるのが使い捨て製品です。特に嘔吐物処理キットなどは、バケツと雑巾で処理するより、固めて捨てるキットの方が、スタッフの感染リスクを含めたトータルコストは安くなります。

3. ノンタッチ・フィッティング(着脱革命)

  • 感染リスクの瞬間: 防護服(PPE)は、着る時よりも「脱ぐ時」が危険です。表面に付着したウイルスを触ってしまうからです。
  • ニッチな商機: そこで、「手を触れずに手袋が装着できるディスペンサー」や、「足で踏むとガウンが外れる機構」などが注目されています。
  • 教育販売: こうした製品を売る際は、必ず「正しい着脱訓練(講習会)」をセットにしてください。「モノを売る」のではなく、「スタッフの安全を守る運用」を売るのです。

第3章:感染管理室(ICN/ICD)攻略法

病院には「感染対策チーム(ICT)」という特別な組織があります。 ここを攻略しないと、感染対策商品は売れません。

1. エビデンス(殺菌データ)至上主義

  • NGワード: 「なんとなく効きそうです」「消臭効果もあります」
  • OKワード: 「北里環境科学センターの試験データです。インフルエンザウイルスなら10分で99.99%、芽胞菌(Clostridioides difficile)なら30分で死滅します」
  • 重要: 実空間(25㎥など)でのデータを持参してください。シャーレの中だけのデータは「参考値」扱いです。

2. サーベイランス(監視)の支援

  • 彼らの悩み: 「どこに菌がいるか分からない」「アウトブレイク(集団感染)の兆候が見えない」。
  • 提案: ATP拭き取り検査(ルミテスター)をデモで実施します。「ドアノブの数値が3000RLUです。基準値は500なので、ここは汚染されています」と数値で示す。
  • 目的: 商品を売る前に、「敵(汚染箇所)を可視化」し、信頼を勝ち取ることです。

第4章:営業マンが「汚染源」にならないために

これは基本中の基本ですが、意外とできていない人が多い。

マナー1:持ち込みのリスク(カバン・衣服)

  • 鉄則: 営業カバンを絶対に床に置かないでください。病院の床はウイルスの海です。
  • アクション: 「カバン掛けをお借りしてもよろしいでしょうか?」と聞くか、持参したS字フックを使います。
  • 退出時: 病院を出た瞬間に、カバンの底と自分の靴裏をアルコールシートで拭く。この姿を窓から見ている師長さんがいます。「あの人は分かっている」と評価されます。

マナー2:体調管理の徹底(ユニバーサルマスク)

  • 鉄則: 「微熱だけど頑張ります」は、医療業界ではテロ行為です。
  • アクション: 毎朝検温し、37.0度以上なら問答無用でアポイントを変更する。「感染リスクを考慮し、大事を取らせていただきます」と言えば、逆に信頼度は上がります。無理をして訪問し、後でコロナ陽性と判明したら、出入り禁止(出禁)になります。

第5章:明日から使えるアクション・チェックリスト

あなたの提案は「清潔」ですか?

  • [ ] 製品の「殺菌・不活化データ」は、ウイルス種ごとに整理されているか?
  • [ ] 提案書に「ゾーニング(配置図)」を盛り込んでいるか?
  • [ ] 省力化(清掃時間の短縮)を定量的に示せるか?
  • [ ] 感染対策チーム(ICT)のキーマン(認定看護師)の名前を知っているか?
  • [ ] 自分のカバンの底を毎日拭いているか?

【実録】ケーススタディ:老健施設でのクラスター対策

介護老人保健施設 H施設の事例

【課題】 認知症の入居者が多く、マスクをしてくれない。手洗いも徹底できない。 もし一人が感染したら、全員に広がるリスクが高かった。 職員も疲弊しており、頻繁な消毒作業はこれ以上無理。

【提案内容】 「空間除菌」ではなく「局所排気」のアプローチ。 食堂のテーブルごとに、飛沫を吸い込む小型の空気清浄機を設置。 また、手が触れる手すりには、効果が1年持続く「光触媒コーティング」を施工(毎回の清掃を省略するため)。

【結果】 近隣施設でクラスターが多発する中、H施設では2年間、一人も陽性者を出さなかった。 「掃除の手間が減ったのに、感染も防げた」と職員からも好評。 この実績が口コミで広がり、グループ内の全10施設に導入が決まった。


よくある質問(FAQ)

Q. 「次亜塩素酸水」の空間噴霧は提案していいですか? A. WHOや厚労省は「有人空間での噴霧は推奨しない」という見解を出しています(目や呼吸器への影響リスク)。無人の時間帯ならOKですが、人がいる場所では控えた方が無難です。私たちは「HEPAフィルター付き空気清浄機」という王道の提案をお勧めしています。

Q. コロナが落ち着いたら、感染対策商品は売れなくなりませんか? A. 確かに特需は終わりましたが、意識は定着しました。インフルエンザ、ノロウイルス、そして次なるパンデミック(Disease X)。病院は常に戦っています。「平時の感染対策(スタンダード・プリコーション)」として、日常に溶け込む提案ができれば、需要はなくなりません。

Q. 競合が高性能な製品を出してきました。 A. 感染対策は「点」ではなく「面」です。機械の性能だけでなく、「消耗品の供給安定性」や「故障時の代替機対応」など、運用面での安心感を訴求してください。コロナ初期にマスクやガウンが欠品して泣いた経験を持つ病院は、「安定供給」に高い価値を置きます。

Q. 紫外線(UV)ロボットは人体に影響ありませんか? A. 強力な紫外線(UV-C)は皮膚がんや目の障害の原因になります。ですので、人感センサーで「人が入ってきたら即停止する」安全機能が必須です。また、夜間の無人運用を前提とし、運用ログ(誰がいつ稼働させたか)を管理するシステムとセットで提案してください。

Q. 抗菌薬適正使用支援チーム(AST)とは何ですか? A. ICT(感染対策チーム)の親戚のような組織ですが、こちらは「薬の使い方」に特化しています。耐性菌を出さないために、不必要な抗生物質の投与を減らす活動をしています。検査薬メーカーなら、ASTに対して「迅速同定検査(どの菌かすぐ分かる)」を提案することで、ターゲット治療への切り替えを支援できます。

Q. ゾーニング工事は高額になりませんか? A. 本格的な陰圧室工事は数千万円かかりますが、今は「簡易陰圧ブース(テント型)」や「パーティション工事」で安価に済ませる方法があります。補助金(医療機関・薬局等における感染拡大防止等支援事業)が使えるケースも多いので、その申請サポートとセットで提案してください。

Q. 訪問営業を断られます。どうすれば? A. 「資料だけ置いて帰ります」ではなく、「感染対策の最新ガイドライン(学会情報)のサマリーを持ってきました」と言ってください。知識の提供者(情報屋)になることです。また、Zoomなどのオンライン面談ツールを導入支援する(使い方も教える)ことで、Web商談のパイプを作ってください。

Q. 競合他社との差別化ポイントは? A. スペック(除去率)はどこも同じです。勝負は「運用サポート」です。「定期的にフィルター交換に行きます」「汚染箇所のルミテスター測定を無料でやります」といった、人の手が介在するサービスをつけてください。現場は「言わなくてもやってくれる」ベンダーを求めています。


現場で使える!重要用語解説

  • スタンダード・プリコーション(標準予防策):
    • 患者の診断名に関わらず、血液、体液、分泌物などは全て「感染性がある」と見なして対応する基本原則。
  • ゾーニング:
    • 汚染区域(レッド)と清潔区域(グリーン)を明確に分け、人や物の動線を交差させないこと。
  • HEPAフィルター:
    • 0.3μmの粒子を99.97%以上捕集できる高性能フィルター。手術室やクリーンルームに使われる規格。これが入っていない空気清浄機は、病院ではおもちゃ扱いです。

コラム:見えない盾になる

感染対策商品は、設置しても何も起きません。 「何も起きないこと」。 それが最大の成果であり、最も評価されにくい部分でもあります。

でも、考えてみてください。 その「何も起きなかった一日」のおかげで、予定通り手術ができた患者さんがいる。 安心して面会できた家族がいる。 私たちは、ウイルスの脅威から病院という聖域を守る「見えない盾」を売っているのです。

派手さはありません。 でも、これほど誇り高い仕事もありません。 今日も消毒液の臭いがする廊下を歩きながら、私は心の中で「よし、今日も異常なし」と呟いています。


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