「壊れてから直せばいいじゃないか。なんで毎月お金を払わなきゃいけないんだ?」 コスト削減に厳しい事務長から、必ず言われるこのセリフ。 これに「いや、法律で決まっていますから」としか返せない営業マンは、まだまだ二流です。
こんにちは。医療用ベッドメーカー営業統括部長の佐藤大介です。 私の部署では、年間売上の3割が「保守・メンテナンス契約」によるストック収入です。 単発(ショット)で機器を売るのも重要ですが、会社経営を安定させるのは、この地味な保守契約の積み上げです。
しかし、現場では「保守契約が取れない」という相談をよく受けます。 なぜか? それは、顧客にとってメンテナンスが「掛け捨ての保険」に見えているからです。 何も起きなければ損をする。そう思われている。 この認識をひっくり返し、「保守契約こそが、最もコスパの良い投資である」と納得させるロジックが必要です。
本記事では、私が若手時代から実践してきた「保守契約獲得のための営業トーク」と、病院経営視点に立った「サービスの価値化」について、徹底解説します。
第1章:なぜ保守契約は「断られる」のか?
1. 「目に見えないもの」への対価
- 心理的ハードル: 納品されたCTやベッドは「物体」としてそこにありますが、保守契約は「安心」という目に見えないサービスです。日本人の商慣習として「サービスは無料(おまけ)」という意識が根強く、「何も壊れなかったら損じゃないか」という掛け捨て保険への抵抗感が、契約を阻む最大の壁です。
- 顧客の声: 「壊れたらその都度(スポット修理で)呼ぶからいいよ」と言われますが、これは私たちが「安心の価値」を言語化できていない証拠です。
2. 事務部門と現場の温度差(VS構造)
- 現場の声: 放射線技師長は「CTが止まったら診断できない。絶対契約してくれ」と懇願します。
- 事務方の論理: しかし財布を握る事務長は、「過去5年で故障は1回だけ。修理費は20万円だった。保守費は年間10万円×5年=50万円。契約しない方が30万円もお得だ」という確率論の電卓を叩きます。
- 結論: この「過去のデータに基づいたコスト計算」を打破しない限り、契約印はもらえません。
3. 「メーカー囲い込み」への警戒感
- 競合の出現: 「メーカー保守は高い。消耗品も純正縛りだ」という不満に対し、最近活動を活発化させているのがIndependent Service Organization(ISO:独立系メンテナンス業者)です。メーカーの半額近い価格を提示してきます。
- 危機感: 単に「純正だから安心です」という精神論では、価格競争に巻き込まれて負けます。「メーカーにしかできない付加価値(ブラックボックス部分の解析など)」を提示する必要があります。
第2章:保守契約を取るための「3つの処方箋」
私が部下に徹底させている、契約獲得のための鉄板ロジックです。
処方箋1:ダウンタイム(停止時間)の損失を金額換算する
- 電卓対決: 事務長の「保守料が高い」という攻撃には、「止まった時の損害額」で反撃します。
- トーク例: 「事務長、このMRIが1日止まったら、何人の患者さんを断りますか? 20人として、1人2万円なら日額40万円の損失です。スポット修理だと部品手配に3日かかるので、計120万円が飛びます。保守契約なら即日対応で損失ゼロです。年間10万円の保険料で、120万円のリスクを回避しませんか?」
処方箋2:医療法と安全管理責任者へのアプローチ
- 法的根拠: 医療法第15条の2により、管理者は医療機器の保守点検を適切に行う義務があります。これを怠って事故が起きた場合、管理者の「安全配慮義務違反」が問われます。
- トーク例: 「もし点検なしで事故が起きたら、病院側の過失責任になります。メーカー保守に入っていれば、『メーカーの推奨基準で点検していた』という事実が、万が一の訴訟時の強力な防波堤(リーガル・ディフェンス)になります」
処方箋3:ライフサイクルコスト(LCC)の提示
- 長期視点: 「今は新品だから壊れませんが、電子部品の寿命は7年です」
- 平準化メリット: スポット修理だと、ある年に突然基板交換で50万円が飛び、予算計画が狂います。保守契約は、この「突発的な出費」を「毎月の固定費」に変える財務テクニックです。「変動費を固定費化し、経営を安定させましょう」という提案は、経営企画室に響きます。
第3章:最新トレンド ~「直す」から「予知する」へ~
IoT技術の進化で、保守の概念が変わりつつあります。
1. リモートメンテナンスと予兆保全
機械がインターネットにつながり、メーカーが24時間監視する。 「温度が異常に上がっています。今のうちに部品交換しましょう」と、壊れる前に連絡する。 これが「予兆保全」です。 「壊れてから駆けつける」これまでのサービスから、「壊させない」サービスへ。 これなら、何も起きなくても「監視してくれている」という価値を感じてもらえます。 私たちも、ベッドのモーター稼働データを監視し、故障前の交換提案を始めています。
2. サブスクリプション型モデルへの移行
「機器代金」と「保守費」を分けず、全て込みの月額払いにします。 これだと、顧客は「保守費」という項目を意識しません。 例えば「月額5000円で使い放題(修理込み)」という契約なら、導入ハードルも下がりますし、メーカーもしっかり保守利益を確保できます。 売り切り型からの脱却は、業界全体の急務です。
3. 資産管理(アセットマネジメント)代行
- 課題: 病院には輸液ポンプが数百台ありますが、臨床工学技士(ME)は「どこに何台あるか」把握できていません。
- 解決策: 機器にRFIDタグを貼り、位置情報をリアルタイムで管理するサービスを提供します。「3階病棟にポンプが余っています」といった稼働率最適化まで提案できれば、もはや単なる修理屋ではなく、経営パートナーです。
- キラーフレーズ: 「御社の資産(アセット)を、私たちが最適化します」
第4章:営業マンのスキルアップ ~手と目を動かせ~
契約を取った後、更新してもらえるかは現場対応次第です。
スキル1:訪問時の「あと一歩」
- Before: 修理して報告書を置いて帰る。
- After: 「ついでに隣の呼吸器のフィルターも清掃しておきましたよ(頼まれていないが)」。この「1分の親切」が、次回の契約更新を決定づけます。
- テクニック: サービスレポート(作業報告書)の備考欄は空白にしない。「使用環境温度が高いため、ファンの劣化が早まる可能性があります」と一言添えるだけで、プロの仕事になります。
スキル2:現場の声を「開発」につなぐ
- 役割: サービスマンは、開発部にとっての「最強のセンサー」です。
- 行動: 「看護師さんがこのスイッチを押しにくそうにしていた」「ケーブルがよく断線するのは、ベッドの柵に挟まりやすい位置にあるからだ」。こうした現場の小さな不満を写真に撮り、開発部にフィードバックする。
- 成果: それが次期モデルの改良につながった時、「あれ、〇〇さんの意見で直りましたよ」と顧客に伝える。これで「俺たちのメーカー」というファン化が完了します。
第5章:明日から使えるアクション・チェックリスト
あなたの保守提案は、ただの「集金」になっていませんか?
- [ ] 提案書に「ダウンタイムの損失額」を明記しているか?
- [ ] 医療法上の「保守点検義務」の根拠条文を示せるか?
- [ ] 事務長だけでなく、臨床工学技士(ME)とも関係を作っているか?
- [ ] 作業報告書は、専門用語だらけの不親切なものになっていないか?
- [ ] 「壊れる前の提案(予兆保全)」ができているか?
【実録】ケーススタディ:地域の中核病院での包括契約
公立病院 E病院の事例
【課題】 部門ごとにバラバラにメーカーと保守契約を結んでおり、契約更新の手続きが煩雑。 コストも割高で、どの機器が契約内なのか不明確な状態だった。
【提案内容】 「院内全ベッド(他社製含む)の一括保守管理」を提案。 月1回の定期巡回点検と、故障時の窓口一本化。 他社製ベッドの修理も、私たちが窓口となって手配する(マージンを取るのではなく、管理代行として)。
【結果】 事務方の契約管理工数が90%削減。 ボリュームディスカウントにより、病院全体の保守コストも15%削減。 私たちは、他社製ベッドの入れ替え時期情報を独占的に入手できるようになり、次回の買い替えでシェア100%を達成した。 「損して得取れ」の成功パターン。
よくある質問(FAQ)
Q. 「フルメンテナンス(部品代込み)」と「点検のみ」どっちを勧めるべき? A. 私は断然「フルメンテ」を推します。事務方にとっては予算が固定化できるメリットがありますし、私たちも毎回見積もりを出す手間が省けます。メーカーとしての利益率も、確率論的にはフルメンテの方が高い設定になっています。
Q. 競合(ISO業者)に価格で負けます。どうすれば? A. 価格勝負には乗りません。「部品の供給体制(純正品在庫)」と「技術情報のアップデート(最新ファームウェアへの対応)」で差別化します。「安い業者は、中古部品を使っているかもしれませんよ? トラブル時の責任は取れますか?」と、品質リスクをやんわりと(あくまで紳士的に)伝えます。
Q. 古い機種の保守終了(EOS)をどう伝える? A. これが一番揉めますね。「もう直せません」と言うのは無責任です。1年前から告知し、「下取りキャンペーン」とセットで買い替えを提案します。EOSは最大の買い替えチャンスです。怒られるのを恐れず、早め早めのアナウンスが鉄則です。
Q. 海外製機器のマニュアルが英語しかないのですが。 A. 事務方や現場は嫌がります。私たちは、主要なエラーコードと対処法だけをまとめた「日本語版・簡易トラブルシューティングシート」を自作してラミネートし、機器のそばに吊るしています。これだけで「呼ぶ回数」が減りますし、現場からも感謝されます。小さな親切が契約継続の鍵です。
Q. 故障時の駆けつけ時間は保証できますか? A. 「24時間以内」といった努力目標は言えますが、「絶対に3時間以内」といったコミットは避けるべきです(交通事情もあるので)。その代わり、「一次切り分け(電話診断)」は30分以内に行う、といった「初動の速さ」をアピールします。現場が一番不安なのは「放置されること」だからです。
Q. サイバーセキュリティ対策は保守に含まれますか? A. 今後は必須になります。身代金ウイルス(ランサムウェア)対策として、OSのパッチ当てやウイルス定義ファイルの更新を保守項目に入れる動きが進んでいます。「セキュリティ保守」という新しい課金ポイントになるので、IT部門と連携して提案メニューを作ってください。
Q. 修理中の代替機(貸出機)は無料ですか? A. 「保守契約内なら無料、スポットなら有料(1日〇万円)」と明確に差をつけてください。これが契約への強力なインセンティブになります。現場は「止まること」を一番恐れるので、「代替機確約」は最強のカードです。
Q. 部品の保有期間(7年など)が過ぎたらどうしますか? A. 公式には修理不可ですが、ベストエフォート(努力対応)で、まだ使える中古部品などで対応する場合もあります。ただし、責任問題になるので念書が必要です。基本的には「部品があるうちに買い替え」を強く勧め、そのための「下取り優遇パス」などを発行するのがスマートです。
現場で使える!重要用語解説
- 特定保守管理医療機器:
- 保守点検を行わなければリスクが高いとして、厚労大臣が指定した機器。CT、MRI、人工呼吸器など。これらは法的にも管理が厳しい。
- ダウンタイム:
- 機器が故障して使えない時間。これをゼロに近づけるのが保守の究極の目的。
- オンコール契約:
- 定期点検はなしで、故障した時だけ呼ぶ契約。または、夜間休日の緊急対応のみを保証する契約。
コラム:機械を直すな、心を直せ
若手サービスマンによく言う言葉です。 「機械が直れば、お客様は満足すると思うな」。 故障した時、現場の看護師さんはパニックになっています。 検査が止まってイライラしています。 そんな時、無言で機械をいじって「はい、直りました」と帰るサービスマンは失格です。
「大変でしたね、ご迷惑をおかけしました」 「もう大丈夫ですよ。念のため、ここも見ておきましたから」 その一言が、マイナスをゼロに戻すだけでなく、プラスに変えるのです。 技術力はあって当たり前。 最後に選ばれるのは、「困った時に顔が浮かぶ人」かどうか。 保守契約とは、究極的には「あなたとの信頼関係への課金」なのです。
この泥臭い人間関係こそが、AI時代に残る最後の砦だと、私は信じています。
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