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【完全版・詳細解説】医療通訳の需要と遠隔通訳サービスの可能性

2026/02/10

【完全版・詳細解説】医療通訳の需要と遠隔通訳サービスの可能性

「Does anyone speak English?」

大阪・ミナミのクリニックの待合室で、腹痛を訴える外国人旅行者が叫んでいました。 受付のスタッフは困り果て、スマホの翻訳アプリをかざしますが、うまく伝わらず、お互いにパニック状態。 たまたま営業で居合わせた私が、片言の英語と身振り手振りで仲介し、なんとか状況を整理しました。

「せっかく日本に来てくれたのに、最後の思い出が『言葉が通じない不安』だなんて悲しすぎる」 そう強く感じた瞬間でした。

はじめまして。化学メーカーの新規事業部で、ヘルスケア事業の立ち上げに奮闘している長田です。 私は元々、全く畑違いの素材営業をしていましたが、大阪万博を見据えた「インバウンド×医療」のプロジェクトを任され、この言葉の壁(ランゲージ・バリア)の問題に直面しました。

コロナ禍が明け、街には外国人観光客が溢れています。 当然、病気や怪我をする人も増えます。 しかし、受け入れる医療機関側の体制は、驚くほど脆弱です。 「医療通訳? うちは外国人は来ないから関係ないよ」 そうおっしゃる院長先生も多いですが、それはもう過去の話です。 コンビニに外国人の店員さんがいるように、患者さんが外国人であることは、もはや日常なのです。

本記事では、異業種出身の私が現場で見た「言葉の壁」の実態と、それを解決するための現実的な解である「遠隔医療通訳」の可能性について、ビジネスと現場の両方の視点からお話しします。


第1章:なぜ今、「医療通訳」が経営課題なのか?

1. 翻訳アプリの限界と「誤訳」のリスク

「Google翻訳があるから大丈夫」 これは非常に危険な認識です。 日常会話なら「お腹が空いた」が「腹が減った」になっても問題ありません。 しかし、医療現場では「胸が痛い(Pain)」と「胸が苦しい(Tightness)」の違いが、心筋梗塞の診断を左右します。 無料の翻訳アプリは、主語を勝手に補ったり、医学用語を誤って訳したりするリスクがあります。 もし誤訳が原因で医療事故が起きたら? 説明義務違反(インフォームド・コンセントの不備)で訴えられたら? そのリスクを負うのは、現場の医師ではなく、経営者であるあなたです。

2. インバウンド需要だけではない「在留外国人」の増加

観光客(フロー)ばかりに目が行きがちですが、実はより深刻なのは、日本で暮らす技能実習生や特定技能外国人(ストック)の層です。 彼らは生活者として、地域のクリニックを受診します。 私の地元の大阪の工場地帯でも、ベトナムやブラジルの方々が急増しています。 「日本語が話せないから受診を控える」ことで重症化し、救急搬送されてくる。 そして未収金(治療費の未払い)が発生する。 この負の連鎖を断ち切るためにも、初期段階できちんとコミュニケーションが取れる「通訳体制」は、地域医療のインフラなのです。

3. 「医療ツーリズム」という攻めの経営

一方で、これをチャンスと捉える病院も増えています。 中国や東南アジアの富裕層向けの「人間ドック」「美容医療」「がん治療」。 これらは自由診療であり、高い収益が見込めます。 ここで選ばれる基準は、医療技術以上に「安心して母国語で受診できるか」です。 医療通訳の質は、そのまま「病院のサービス品質」として評価され、口コミで広がります。 通訳体制への投資は、コストではなく、高単価な顧客を呼び込むためのマーケティング投資なのです。


第2章:現実的な解としての「遠隔医療通訳」

通訳者を常駐雇いするのは、コスト的に不可能です。そこで私も提案しているのが「ITを使ったシェアリング」です。

1. タブレット越しの「医療通訳のプロ」

遠隔医療通訳サービス(ビデオ通話)の最大のメリットは、「必要な時だけ、必要な言語のプロを呼べる」ことです。 iPadのボタンを押せば、30秒で画面の向こうの通訳者につながります。 彼らは単なる語学堪能者ではありません。 「医療通訳士」の資格を持ち、解剖生理学や薬剤の知識があり、守秘義務(HIPAA等)の訓練を受けています。 医師の「痛みの性状はどうですか?」という質問を、的確な医学用語で、かつ患者の文化背景に合わせたニュアンスで伝えてくれます。

2. コストパフォーマンスの圧倒的差

常駐の通訳者を雇えば、年収400万円以上かかります。英語、中国語、ベトナム語…と揃えれば数千万円です。 一方、遠隔通訳なら、月額数万円の基本料+従量課金(1分〇〇円)で済みます。 中小規模のクリニックや、夜間救急外来において、これほど合理的な選択肢はありません。 私たちメーカーの視点で見ても、これは「所有から利用へ(SaaS化)」という時代の流れに完全に合致しています。

3. 24時間365日対応の安心感

夜中の2時に、ネパール語しか話せない急患が来たらどうしますか? 遠隔通訳サービスの多くは、24時間対応しており、希少言語にも対応しています。 現場の看護師さんにとって、「いざとなればiPadがある」という安心感は、計り知れないストレス軽減になります。 これは働き方改革にもつながるのです。


第3章:ステークホルダー別攻略法 ~導入への壁をどう崩すか~

私が病院にこのサービスを提案する際、相手によって言葉を変えています。

1. 事務長・経営層

  • 関心事: コストとリスク。
  • 私のアプローチ: 「月額3万円で始める『訴訟リスク対策』です」と言い切ります。「通訳不在による説明不足で訴えられた場合の賠償額と比べてください。また、外国人患者の未収金回収率も、言葉が通じれば確実に上がります」と、金銭的メリットを強調します。

2. 現場医師

  • 関心事: 診療の質と時間。
  • 私のアプローチ: 「先生の診療時間を短縮できます」と伝えます。「片言の英語で四苦八苦する15分を、通訳を使ってサクサク進める5分に変えませんか? 正確な問診ができれば、診断の精度も上がります」と、プロとしてのプライドと効率性に訴えます。

3. 受付・看護師

  • 関心事: 窓口でのトラブル、恐怖感。
  • 私のアプローチ: 実際にiPadを触ってもらいます。「ボタン一つで助けを呼べます。もう受付で怒鳴られて怖い思いをしなくていいんです」と、彼女たちの精神的なお守りになることを伝えます。

第4章:導入のロードマップ ~失敗しないステップ~

ステップ1:現状把握(ログの確認)

まずは、月に何人、何語を話す患者が来ているかチャックします。 「うちは来てない」と思っていても、実は受付で断っている(機会損失)だけかもしれません。 近隣のホテルや日本語学校の分布を調べるのも、マーケティング(エリア診断)の手法として有効です。

ステップ2:Wi-Fi環境の整備

これが意外な盲点です。 診察室の奥まった場所で電波が入らず、画面がフリーズする。これが一番現場をイラつかせます。 私たちメーカーは、製品導入前に必ず「電波調査(サイトサーベイ)」を行い、必要であれば中継器の設置も提案します。 インフラの足回りが命です。

ステップ3:運用ルールの策定

「どんな時に使うか」の基準を決めます。

  • 道案内や受付は翻訳アプリ(無料)でOK。
  • 問診、病状説明、手術の同意取得は必ず遠隔通訳(有料)を使う。 この使い分け(トリアージ)をマニュアル化しないと、無駄なコストがかかるか、リスクのある場面で使われない事態になります。

ステップ4:スタッフへのロールプレイング

導入初日にぶっつけ本番はNGです。 医師役、患者役(外国人)、通訳(iPad)で模擬診療を行います。 「iPadを置く位置」「話すスピード」「主語を明確にする話し方」。 これを体感しておくことで、本番の心理的ハードルが下がります。


第5章:明日から使えるアクション・チェックリスト

あなたの病院の「国際化対応度」をチェックしてみてください。

  • [ ] 院内のWi-Fiは動画通話に耐えられる速度(上り下り10Mbps以上)か?
  • [ ] 受付に「We have medical interpretation service」という表示を出しているか?
  • [ ] 医師は「やさしい日本語(Plain Japanese)」を話す意識を持っているか?
  • [ ] 同意書や問診票の多言語版は用意されているか?
  • [ ] 遠隔通訳がつながらない時のバックアップ(電話通訳など)はあるか?
  • [ ] 外国人患者受け入れ医療機関認証(JMIP)の取得を検討しているか?

【実録】ケーススタディ:地方都市でも外国人は来る

関西のベッドタウン K病院の事例

【課題】 近くに工場団地があり、南米系の日系人が多く住んでいるが、ポルトガル語やスペイン語に対応できず、救急外来が混乱していた。 看護師が翻訳アプリで対応していたが、誤解からトラブルになり、警察を呼ぶ騒ぎもあった。

【導入後】 映像通訳サービスを導入し、救急外来と産婦人科にタブレットを配置。 「言葉が通じる病院」という噂がコミュニティ内で広まり、妊婦検診の受診者が増加。 以前は飛び込み出産で未払いになるケースが多かったが、定期健診で保険証の確認や支払い説明を通訳を介して行うことで、未収金トラブルが激減した。

【現場の声】 「画面越しに通訳さんの顔が見えるだけで、患者さんが明らかにホッとした表情になるんです。それを見て私たちも安心しました」(看護師長)


よくある質問(FAQ)

Q. 機械翻訳(ポケトークなど)ではダメですか? A. 受付や病棟の生活会話なら十分優秀です。しかし、診断や同意取得などの「責任が発生する場面」では、まだリスクが高いです。ハイブリッドでの運用(使い分け)をお勧めします。

Q. 費用は患者さんに請求できますか? A. 原則として、保険診療内では通訳費用を患者に請求することは混合診療の禁止に抵触する可能性があります(解釈が分かれる部分もありますが)。多くの病院は「病院持ち(経費)」として処理するか、選定療養費として工夫して徴収しています。ここは自院のポリシーを決める必要があります。

Q. どの業者を選べばいいですか? A. 「医療専門」であること。これが絶対条件です。一般的なコールセンターの通訳では、医学用語が訳せません。「医療通訳養成講座」の修了生を使っているか、確認してください。


現場で使える!重要用語解説

  • 医療通訳士:
    • 語学力だけでなく、医学知識と倫理規定(中立性・守秘義務)を身につけたプロフェッショナル。
  • やさしい日本語:
    • 外国人に伝わりやすいように調整した日本語。「服用する」→「飲む」、「腹部」→「おなか」。通訳を使う際も、元の日本語を簡単にするだけで訳の精度が上がります。
  • JMIP (Japan Medical Service Accreditation for International Patients):
    • 外国人患者受入れ医療機関認証制度。取得すると、インバウンド受け入れ病院として国のお墨付きが得られ、アピールになります。

コラム:言葉は「心の架け橋」

「Thank you. You saved my life.」

冒頭のクリニックで、無事に診察を終えた旅行者が、私に握手を求めて言ってくれた言葉です。 大げさかもしれませんが、言葉が通じるということは、それだけで「救い」なのだと実感しました。

私たちメーカーは、素材や化学の力で製品を作ります。 しかし、医療の現場で本当に必要なのは、人と人をつなぐ「コミュニケーションという素材」なのかもしれません。 遠隔通訳というテクノロジーは、冷たい画面越しのサービスに見えますが、そこには確かに「理解したい」「助けたい」という人間の体温が通っています。

言葉の壁を越えて、すべての人が安心して医療を受けられる社会へ。 異業種参入組の私だからできる視点で、これからも現場の架け橋(ブリッジ)になりたいと思います。


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