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オンライン診療サービスの導入を成功させるための営業プロセス

2025/12/11

オンライン診療サービスの導入を成功させるための営業プロセス

「オンライン診療」― コロナ禍を機に一気に注目を浴びたこの言葉には、大きな期待と、同時に根強い懐疑心が渦巻いています。我々のようなヘルスケアITのスタートアップにとって、それは巨大なブルーオーシャンに見えるかもしれません。しかし、いざ営業の現場に立ってみると、多くの医療機関が導入に踏み切れない「見えない壁」の存在に気づかされるはずです。「本当に経営にプラスになるのか?」「セキュリティは大丈夫なのか?」「今の業務フローをこれ以上複雑にしたくない」。これらの現場のリアルな不安を解消できなければ、どんなに優れたサービスも、宝の持ち腐れとなってしまいます。

私自身、この「見えない壁」に何度も跳ね返されてきました。しかし、数百のクリニックと対話し、試行錯誤を重ねた末にたどり着いたのは、オンライン診療の営業は、単なるプロダクトの提案ではなく、クリニックの「変革」を支援するコンサルティングに近い、という結論でした。そして、その変革を成功に導くためには、情熱だけでなく、再現性のある「営業プロセス」が不可欠なのです。

本記事では、机上の空論ではない、現場での無数の失敗とささやかな成功から得た「オンライン診療サービスを導入成功させるための営業プロセス」を、具体的なツールやトーク例を交えながら、4つのステップで詳細に解説します。


Step 1: ターゲット選定 ― すべての医療機関は顧客ではない

最初の、そして最も重要なステップは、「ターゲット」を明確にすることです。オンライン診療は、すべての医療機関にとっての万能薬ではありません。自社サービスが最も価値を発揮できる、導入確度が高い「理想の顧客像(ICP:Ideal Customer Profile)」を描き、そこにリソースを集中させることが、無駄な営業コストを削減し、初期の実績を作るための最短距離です。

理想的なターゲット像(例)

  • 慢性疾患の定期フォローが中心のクリニック: 高血圧、糖尿病、アレルギー疾患など、状態が安定している患者の定期的な処方・経過観察がメインの施設。
  • メンタルヘルス・カウンセリング: 対面での心理的ハードルを下げ、継続的なカウンセリングを促したい心療内科や精神科。
  • 都市部で、働く世代の患者が多いクリニック: 「通院時間の確保が難しい」という強いペインを持つ患者層を、新たなターゲットとして取り込みたい施設。
  • 自由診療(AGA、ピル処方など)に積極的なクリニック: 利便性をフックに、新たな患者層を獲得したいと考えている、Webマーケティングにも積極的な経営マインドの高い施設。

逆に、初診の触診や視診が重要な皮膚科や、外科的処置がメインの施設は、初期のターゲットとしては優先度が低いかもしれません。下記のようなスコアリングシートを用いて、客観的にアプローチの優先順位を判断することをお勧めします。

【ターゲット適正スコアリングシート(例)】

  • 診療科(内科/精神科:+5, 自由診療:+3, 外科:-5)
  • 患者層(若年/都市部:+3, 高齢/地方:-3)
  • ITリテラシー(経営者がスマホ活用:+5, HPなし:-5)
  • 合計点数が高いクリニックからアプローチする

Step 2: 提案 ― 「機能」ではなく「3つの経営課題」の解決を語る

サービスの機能やUIの美しさをアピールしても、経営者である院長の心には響きません。彼らの関心事は、そのサービスが自院の「経営課題」をどう解決してくれるか、という一点です。提案は、常に「3つの視点」から、具体的な数字を交えて語ることを意識してください。

  1. 【収益改善】への貢献:
    • 提案例:「先生のクリニックでは、1日に約50人の慢性疾患の患者様がフォローアップで来院されていますね。もし、そのうちの2割、10名をオンライン診療に切り替えるだけで、10人分の対面診療の枠が空きます。そこに単価の高い新患を1日5人受け入れることができれば、単純計算で月間〇〇万円、年間△△△万円の増収に繋がります」
  2. 【患者満足度向上・競合対策】への貢献:
    • 提案例:「最近、近隣の〇〇クリニックがオンライン診療を開始したようです。通院の利便性を重視する働く世代の患者様が、そちらに流出してしまうリスクはありませんか?オンライン診療の導入は、既存患者様の満足度向上と、他院への流出を防ぐための『守りの投資』でもあります」
  3. 【業務効率化】への貢献:
    • 提案例:「処方箋の希望や、簡単な質問への回答だけで終わる電話対応に、受付スタッフの方が1日何時間費やされているでしょうか。予約から決済までオンラインで完結させることで、電話対応業務を大幅に削減し、スタッフの方にはより付加価値の高い業務に集中していただけます」

Step 3: 3大障壁(診療報酬・セキュリティ・業務フロー)への完璧な回答

提案に興味を持ってもらった後、必ずと言っていいほど直面するのが、次の3つのハードルです。これらに対する明確な回答と、相手の不安を払拭する材料を、事前に完璧に準備しておきましょう。

障壁1:診療報酬(本当に経営にプラスになるのか?)

  • 分かりやすい解説資料: 最新の診療報酬制度について、図や表を用いて「どのような場合に、いくらの点数が算定できるのか」を明確に示します。保険診療だけでなく、導入が容易な「自由診療」での活用法(カウンセリング、AGA、アフターピルなど)も併せて提案し、スモールスタートを促します。
  • 収益シミュレーション: 前述の通り、具体的な患者数や単価を基にした収益シミュレーションを提示します。
  • 導入支援: 施設基準の届け出や、関連書類の作成を代行・サポートする姿勢を見せ、「面倒な手続きも丸ごとお願いできるなら」という安心感を提供します。

障壁2:セキュリティ(個人情報漏洩は大丈夫か?)

  • 権威あるガイドラインへの準拠証明: 「厚労省・経産省・総務省の3省2ガイドラインに完全に準拠しています」と、客観的な事実を伝えます。ISMSやプライバシーマークなどの第三者認証は、強力な武器になります。
  • 技術仕様のわかりやすい説明: 「通信はSSL/TLSで暗号化し、動画データは保存しません。万が一の情報漏洩に備え、サイバーセキュリティ保険にも加入済みです」など、技術的な詳細を、非エンジニアでも理解しやすい言葉で説明します。

障壁3:業務フロー(余計な仕事が増えるのでは?)

  • 「百聞は一見に如かず」のデモンストレーション: 実際に院長やスタッフにサービスを触ってもらい、その簡単さを体感してもらうのが最も効果的です。
  • 役割ごとの業務フロー図: 「患者様の予約→受付スタッフの確認→看護師の事前問診→医師の診察→決済→処方箋送付」といった流れを、誰が、いつ、何をするのかが一目で分かるシンプルな図で提示します。
  • 既存電子カルテとの連携: もし連携機能があれば、最大の強みになります。連携できない場合でも、「こちらの画面と、電子カルテの画面を並べて表示していただくことで、スムーズに…」など、具体的な運用方法を提示します。

Step 4: 導入&オンボーディング ― 成功体験を「高速で」提供する

SaaSビジネスにおいて、契約はゴールではなく、顧客の成功に向けた旅の始まりです。導入後にいかに早く「やってよかった」という成功体験を提供できるかが、その後の継続利用(リテンション)と、他院への口コミ(リファラル)を左右します。

  • スモールスタートの推奨:「まずは〇〇先生の外来で、ITリテラシーの高い患者様5名から試してみませんか?」と、最も成功確率の高いシナリオをこちらから提案し、小さな成功体験を意図的に創出します。
  • 手厚いオンボーディング体制: 導入時には、必ずカスタマーサクセスの担当者が訪問(またはオンラインで常時接続)し、スタッフの不安がなくなるまで、最初のオンライン診療の実施を徹底的にサポートします。
  • 院内掲示物・HP告知文の雛形提供: クリニックが患者様にオンライン診療を告知するための、ポスターやチラシ、ウェブサイトに掲載する文章のテンプレートを提供し、導入後の立ち上がりをマーケティング面でも支援します。

Step 5.【新設】よくある懸念点への対応

それでも出てくる典型的な懸念点も正しく理解し、判断材料となる提案準備をしておきましょう。

  • 懸念点1:「うちの患者さんは高齢者が多いから、使えないよ」
    • 提案例:「先生のおっしゃる通り、ご高齢の患者様全員が使いこなすのは難しいかもしれません。ただ、最近ではご家族の方が同席・サポートされるケースも非常に増えています。また、まずは通院が困難な患者様や、付き添いのご家族の負担軽減といった観点から、一部の患者様にご案内いただく形はいかがでしょうか」
  • 懸念点2:「対面じゃないと、細かいニュアンスが伝わらないんじゃないか」
    • 提案例:「ご懸念はもっともです。もちろん、オンライン診療が対面診療のすべてを代替できるとは考えておりません。しかし、状態が安定している慢性疾患のフォローアップにおいては、表情や声のトーンを確認できるだけでも、電話再診よりはるかに多くの情報が得られる、という先生方も多くいらっしゃいます。一度、この場で私と5分間、デモを試してみませんか?」
  • 懸念点3:「新しいことを覚えるのが、スタッフの負担になりそうだ」
    • 提案例:「新しいことを始める際の、現場の皆様のご負担は、私も重々承知しております。ですので、導入後1ヶ月間は、専任のサポート担当が週に一度お伺いし、操作方法や運用について、完全に皆様が慣れるまで伴走させていただきます。お電話でのサポートは24時間受け付けております」

まとめ

オンライン診療サービスの営業は、未来の医療の形を、顧客と共に作り上げていく、やりがいの大きな仕事です。しかし、それは同時に、顧客の「変化への不安」にどこまでも寄り添う、コンサルティングに近い活動の連続でもあります。機能の優位性だけに頼らず、顧客の経営課題を深く理解し、導入後の成功まで伴走する。その一連のプロセスを仕組み化できたとき、あなたのビジネスは、初めて持続的な成長軌道に乗るのです。

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