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看護部長の信頼を得る!病院組織における影響力とアプローチ法

2025/12/08

看護部長の信頼を得る!病院組織における影響力とアプローチ法

「先生(医師)からはOKをもらったのに、なぜか話が進まない」「導入直前になって、現場から強い反対意見が出てきて計画が頓挫した」。大学病院への営業活動で、このような苦い経験をしたことはありませんか?外科の〇〇教授から「これは画期的だ、すぐにでも使いたい」と絶賛され、事務部門とも価格交渉を終え、あとは導入を待つばかり。そう高を括っていた矢先、「現場の業務フローが混乱する」「看護師のトレーニングに時間が割けない」という理由で、看護部から待ったがかかり、すべてが白紙に戻る。その裏には、多くの病院営業担当者が見過ごしている重要キーパーソンがいます。それが「看護部長」です。

かつての私も、営業とは医師の信頼を得る仕事だと信じて疑いませんでした。しかし、数々の失敗を経て、病院という組織は医師だけで動いているのではない、という単純な事実に気づかされたのです。特に、看護部長は、病院経営と医療現場の両方に絶大な影響力を持つ、真のキーパーソンです。

真のキーパーソンから信頼を得る視点と活動の違いが、大学病院営業の成否を大きく左右します。本記事では、看護部長というポジションの重要性から、関心事、そして具体的なアプローチ法まで、私の経験に基づき戦略的に解説します。


1. なぜ看護部長は「重要キーパーソン」なのか?

病院組織図の上では一人の部門長に過ぎないかもしれません。しかし、看護部長が持つ実質的な権限と影響力は、時に診療科の教授をも上回ります。その理由は、主に3つの「掌握力」に集約されます。

影響力1:病院最大の経営資源を掌握

看護部は、病院内で最も多くの人員を抱える巨大組織であり、病院の総支出の大きな割合を占めます。看護師の人事権、勤務シフトの決定権はもちろんのこと、病棟で日常的に使用される消耗品、ベッド、マットレス、モニター類に至るまで、看護部長は購買プロセス上の大きな影響力があります。新しい医療機器やシステムが、看護師の業務フローに少しでも影響を与えるのであれば、看護部長の許可なくして導入は通常はありえません。看護部との合意形成がなければ、たとえ経営トップ案件であっても、現場で実行されることはないのです。

影響力2:「現場オペレーション」のすべてを掌握

医療は、医師の診断や治療だけで成り立つものではありません。患者のケア、薬剤の管理、医療機器の準備と片付け、安全確認、院内感染対策の徹底。これら医療現場のあらゆるオペレーションは、看護師によって支えられ、その手順(プロトコル)は看護部によって標準化されています。「この製品は、看護師の手間を増やす」「今の業務フローでは対応できない」。「理想」だけでなく、夜勤体制や新人教育といった「現実」を知り尽くしていて、現場を統括する看護部長からこの一言が出れば、それは事実上の導入不可宣言に等しいのです。

影響力3:「経営会議」への直接的な影響力を掌握

多くの大学病院では、看護部長は理事会や経営会議の正式メンバーです。医師とは異なる「現場視点」「患者視点」「組織マネジメント視点」から、病院経営に対して直接意見を述べることができます。病院長や事務長からの信頼も厚く、その発言は重く受け止められます。特に、患者満足度や医療安全といった、病院の評判に直結するテーマにおいて、看護部長の意見は大きな影響力を持ちます。医師ルートだけでなく、看護部長ルートからも合意形成を得た上で経営層にアプローチすることで、提案の採択率は飛躍的に高まります。


2. 看護部長の「3大関心事」を理解する

看護部長にアプローチする際、医師に対するのと同じロジックで話しても、まず響きません。看護部のの視点と、常に頭を悩ませている「3大関心事」があります。提案は、必ずこの関心事と結びつけて行う必要があります。

関心事1:看護師の「業務負担軽減」と「定着率向上」

看護師の離職率の高さと、それに伴う人手不足は、あらゆる病院における最重要経営課題です。看護部長の頭の中は、「どうすれば、今いるスタッフの負担を少しでも減らせるか」「どうすれば、看護師がやりがいを持って働き続けてくれるか」ということで一杯です。あなたの提案が、この課題解決にどう貢献できるかを、具体的に示さなくてはなりません。

  • NG: 「この機器は、従来比20%の性能向上を実現しました」
  • OK: 「この機器を導入することで、看護師1人あたり1日30分の時間創出が可能です。その時間を、患者さんとの対話や、本来のケア業務に充てていただけます。これは、残業時間の削減だけでなく、新人看護師の採用活動においても『働きやすい職場』としてのアピール材料になります」

関心事2:「医療安全」の徹底(インシデント・ゼロへの挑戦)

医療過誤や院内感染は、患者の命に関わるだけでなく、病院の信頼を失墜させる重大インシデントです。例えば、患者の転倒・転落、薬剤誤投与などは、看護業務とも密接に関わっています。看護部長は、医療安全管理の最高責任者の一人として、常にリスク回避にも注意を払っています。

  • NG: 「多機能で、様々な使い方ができます」
  • OK: 「この製品は、ヒューマンエラーを防ぐための〇〇という機能(例:バーコード認証による誤投与防止)が標準装備されています。操作がシンプルなので、新人看護師でもマニュアルを見ずに安全に使用でき、インシデント報告の減少に繋がったという事例がございます」

関心事3:「看護の質」と「患者満足度」の向上

「あの病院は、看護師さんが親切で丁寧だ」。患者やその家族からの評判は、病院経営を左右する重要な要素です。近年では、患者満足度調査(HCAHPSの日本版など)の結果が、病院の評価指標としても重視されています。看護部長は、看護サービスの質を高め、患者満足度を向上させることを常に考えています。

  • NG: 「当社の製品は、業界シェアNo.1です」
  • OK: 「このベッドサイドモニターは、患者さんご自身で体調を入力できるため、ナースコールを鳴らす心理的負担を軽減します。結果として『安心して療養できた』という声が〇〇病院様から寄せられており、患者満足度調査の『看護師とのコミュニケーション』の項目が5ポイント改善した実績もございます」

3. 看護部長の心を開く、具体的なアプローチ戦略

では、具体的にどうすれば、多忙な看護部長との接点を持ち、信頼を得ることができるのでしょうか。

Step1: アポイント取得は「課題解決に繋がる情報提供」から

「ご挨拶に」や「製品紹介で」という用件では、まず会ってもらえません。「看護部長の時間をいただくに値する、有益な情報」を携えていく必要があります。

アプローチメール文例: 件名:看護師の業務負担軽減に関する他院事例のご提供【株式会社〇〇・佐藤】 〇〇大学病院 看護部長 〇〇様 突然のご連絡失礼いたします。株式会社〇〇の佐藤と申します。 先日拝見した、貴院の看護部が注力されている「タスクシフト」の取り組みに感銘を受けました。 つきましては、同様の課題に取り組まれた〇〇病院様にて、弊社のソリューションが看護師の残業時間を月平均〇時間削減したというデータがございます。 一度、情報交換のお時間を15分ほど頂戴し、貴院の状況をお伺いしながら、何かお役立てできる情報をご提供できないかと考えております。

Step2: 初回面談は「課題ヒアリング」に徹する

念願のアポイントが取れても、焦って製品説明を始めてはいけません。初回は、相手の話を聞くことに8割の時間を使いましょう。

ヒアリング例: 「〇〇部長が今、看護部の運営において最も課題だと感じていらっしゃるのは、どのような点でしょうか?」 「新人看護師の教育で、特にご苦労されている点はございますか?」 「もし、予算や人員の制約がないとしたら、どのような看護体制が理想だとお考えですか?」

共感的に話を聞き、「この人は、我々の現場を本当に理解しようとしてくれている」と感じてもらうことが、次のステップへの鍵となります。

Step3: 【新設】師長・主任クラスの信頼も得る

看護部長は多忙であり、全ての現場を詳細に把握しているわけではありません。日々のオペレーション上の課題や、新しい製品に対するリアルな評価は、各病棟や部門の「看護師長」や「主任」から吸い上げています。彼女たちは、看護部長の意思決定に大きな影響を与える「現場のキーパーソン」です。

  • アプローチ法: 看護部長にアプローチする前、あるいは並行して、関係の深い診療科の師長クラスにアプローチし、「〇〇病棟では、△△についてお困りではないですか?」と個別にヒアリングを行います。
  • メリット: 現場レベルでのトライアルや、小さな成功事例を作ることができれば、それが師長から看護部長への強力な推薦状となります。「〇〇病棟の師長が『あれは良い』と言っている」。この一言が、看護部長への提案機会を得るきっかけになるのです。

Step4: 医師の合意形成も得て「共同提案」を行う

看護部長への提案は、自社だけで行うよりも、現場の医師の合意形成も得ることで、説得力が格段に増します。「〇〇教授も、この製品が導入されれば、手術の準備時間が短縮され、看護師さんの負担が減ると仰っています」。このような形で、医師と看護部の双方にメリットがある「Win-Win」の構図を示すことで、より強力な合意形成が得られ、全診療科を巻き込んだ大きな動きへと繋がる可能性があります。


まとめ

大学病院における看護部長は、現場のオペレーションを支え、経営にも深く関与する、最重要キーパーソンです。医師だけに提案していては、決して見えてこない景色があります。看護師の労働環境、医療安全、そして患者満足度。看護師の関心事に真摯に耳を傾け、その課題解決に貢献するパートナーとして認められたとき、あなたの提案は、かつてないほどの推進力を得て、実現へと向かって動き出すでしょう。

キーパーソンごとの複雑な力学を読み解き、最適なアプローチシナリオを設計するのは、一筋縄ではいきません。もし貴社が、大学病院の組織攻略に課題をお持ちなら、ぜひ一度ご相談ください。我々が、重要キーパーソンから強い信頼を得るお手伝いをします。 キーパーソン戦略に関するご相談はこちら

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