「先生は、どんな営業担当者なら話を聞こうと思いますか?」 クリニックへの営業を担当し始めたばかりの頃、誰もが一度はこんな疑問を抱くのではないでしょうか。大学病院とはまた違う、院長が「一人の医師」でありながら、スタッフの生活とクリニックの未来を背負う「一人の経営者」でもある独特の環境。次から次へとやってくる営業担当者の中から、いったいどうすれば「その他大勢」を抜け出し、院長先生に顔と名前を覚えてもらえるのか。
私たちは、その答えを探るべく、複数のクリニック院長に直接インタビューを行いました。「こんな営業担当者は信頼できる」「こういう担当者からは、つい物を買ってしまう」—そこから見えてきたのは、決して難しいことではない、誠実で本質的な5つの共通点でした。
この記事は、クリニック営業に悩むすべての営業担当者、特に若手の方々に向けて、院長先生たちの「生の声」をお届けします。これを読めば、あなたが明日から実践すべき、信頼獲得のための具体的な行動がきっと見つかるはずです。
1. 我々の「時間泥棒」にならない人
院長たちが口を揃えて、最も重要な資質として挙げるのが、「時間を大切にしてくれる担当者」です。午前は外来、午後は検査や手術、その合間にスタッフのマネジメントや経営判断、学会の資料作り。院長の1日は、文字通り分刻みです。その貴重な時間を奪う行為は、最も嫌われます。
院長の声
「アポなしでいきなり来るのは論外。約束の時間きっかりに来て、『先生、今日はお忙しいと思うので、要点だけ3分で失礼します』と言ってくれる担当者は、それだけで『できるな』と思う。逆に、長い自己紹介から始めたり、結論をなかなか言わない人は、次は会いたくないですね。Googleで調べれば分かるようなことを質問してくるのも時間の無駄だと感じてしまいます」(50代・内科クリニック院長)
信頼される担当者の行動
- アポイントは必須中の必須。 訪問前には必ずメールか電話で許可を得ます。その際、「〇〇の件で3分だけお時間を」と、用件と時間を具体的に伝えましょう。
- 訪問時には、完璧な「30秒エレベーターピッチ」を準備する。 「私は誰で、今日は何のために来て、あなたにどう役立つのか」を、廊下で立ち話するくらいの時間で伝えられるように練習します。
- 用件は常に「結論から」。 PREP法(Point, Reason, Example, Point)を意識し、まず結論から話し、相手が興味を示せば理由や具体例を補足します。
- メールや電話も簡潔に。 移動中や休憩中にスマホでさっと目を通せる配慮が信頼を生みます。長いメールは、それだけで読む気を失わせます。
2. ただの「製品の専門家」ではなく、「情報のハブ」である人
自社製品の知識が豊富なのは、営業として当たり前のスタートラインです。院長たちが本当に価値を感じ、時間を割いてでも会いたいと思うのは、自社製品の紹介に留まらず、クリニック経営に役立つ「外部情報」を、中立的な視点で提供してくれる担当者です。
院長の声
「自分のところの製品の話しかしない人は、ただの“御用聞き”。一方で、地域の医療連携の新しい動きや、近隣で開業した競合クリニックの評判、最新の診療報酬改定のポイント、さらにはスタッフの採用や教育に使えるような助成金の話なんかを教えてくれる担当者とは、つい長話してしまう。彼らは、我々が院内にいては得られない“外の目”を持ってきてくれる、貴重な情報のハブなんだよ」(40代・整形外科クリニック院長)
信頼される担当者の行動
- 担当エリアの「地域医療の専門家」になる。 医師会や行政の動向、競合クリニックの状況などを常にインプットし、整理しておきます。
- 競合製品の情報や、業界の最新トレンドを客観的に提供する。 「A社の新製品は〇〇が特徴ですが、先生のクリニックの患者層ですと、こちらの△△の機能の方が重要かもしれません」など、顧客視点での情報提供が信頼に繋がります。
- クリニック経営全般にアンテナを張る。 医療分野だけでなく、労務管理、スタッフ育成、マーケティング、補助金制度など、院長が抱えるであろう幅広い悩みの「相談相手」になる意識を持ちます。
- 「先生のクリニック経営において、何かお役立てできる情報はありますか?」と、情報収集のニーズを直接ヒアリングする。
3. 「医師」と「経営者」、二つの顔を深く理解してくれる人
クリニックの院長は、一人の「医師」であると同時に、スタッフとその家族の生活を背負う「経営者」でもあります。この二つの側面を深く理解し、両方の課題にアプローチできる担当者は、その他大勢から抜け出し、唯一無二のパートナーとなり得ます。
院長の声
「『この治療薬は、患者さんの満足度を上げます』という提案は当たり前。『この検査機器を導入すれば、検査時間が1件あたり5分短縮でき、1日の対応患者数が10人増えるので、年間〇〇万円の増収に繋がります。空いた時間でスタッフの研修もでき、定着率向上も見込めます』といった、臨床価値と経営価値をセットで、具体的な数字で示してくれる担当者は、我々の日々の苦労を本当に分かってくれていると感じる」(60代・皮膚科クリニック院長)
信頼される担当者の行動
- 製品の「臨床的価値」と「経営的価値」を必ずセットで提案する。 経営的価値とは、増収効果、コスト削減効果、スタッフの業務効率化・負担軽減、患者獲得への貢献などです。
- クリニックの「KGI/KPI」を意識する。 「1日あたりの患者数」「患者単価」「病床稼働率」「スタッフの離職率」など、院長が気にしているであろう経営指標を学び、それらの改善にどう貢献できるかを語ります。
- 患者の「待ち時間」や「スタッフの動線」など、院内のオペレーションに深く関心を持つ。 「受付周りのこの動線、〇〇を導入すればもっとスムーズになりそうですね」といった一言が、洞察の深さを示します。
4. 小さな約束を守り、どこまでも誠実な人
結局のところ、長期的な信頼関係は「この人は裏切らない」という日々の小さな行動の積み重ねでしかありません。「〇日までに資料をお送りします」といった小さな約束を、相手の期待を少しだけ上回るスピードと質で守り続けることが、大きな契約への道を拓きます。
院長の声
「分からない質問をされた時に、知ったかぶりをせず『申し訳ありません、宿題にさせてください』と正直に言える人は、逆に信用できる。そして、本当に翌日には調べて回答を持ってきてくれる。そういう誠実な対応をされると、この人から買いたいな、と思うよ。あと、意外と見ているのが、うちの受付や看護師への態度。彼らへの態度が横柄な営業は、どんなに良い製品を持っていても付き合いたくないね」(50代・小児科クリニック院長)
信頼される担当者の行動
- 「すぐやります」と言ったことは、文字通り「すぐ」やる。 口頭での約束も、必ずメモを取り、確実に実行します。
- たとえ自社に不利な情報(副作用、欠品情報、納期遅延など)でも、迅速かつ正直に報告する。 誠実な対応が、長期的な信頼を築きます。
- 競合他社の悪口を言わない。 フェアな姿勢が、あなた自身の品格を高めます。
- 院内のすべてのスタッフに、敬意を持って接する。 受付や看護師は、院長の「目」であり「耳」です。彼らからの評判は、あなたの知らないところで院長の判断に影響を与えています。
5.【新設】「かかりつけ営業」になるために
上記の4つを徹底していくと、あなたは単なる「営業担当者」から、院長にとって「何かあったら、まず相談してみよう」と思われる、いわば「かかりつけ営業」とでも言うべき存在になることができます。
院長の声
「付き合いの長いA社のBさんは、もはやうちの準スタッフみたいなものだよ。新しい機器の導入を検討する時、まず彼に『最近、〇〇の領域で何か面白い動きない?』と相談する。彼は、自社製品だけでなく、業界全体の動向を教えてくれるからね。たとえ彼の会社の製品を買わなくても、いつも親身に相談に乗ってくれる。だから、彼が本当に薦めてくれるものは、間違いないだろう、と安心して導入できるんだ」(長年の付き合いがある院長)
これは、製品を売ることを第一目標にするのではなく、顧客の成功を第一に考える「カスタマーサクセス」の視点そのものです。短期的な売上を追うのではなく、長期的な信頼関係の構築にこそ、最大の投資を行うべきなのです。
まとめ
クリニック院長たちが営業担当者に求めているのは、「最新最高の製品」だけではありません。彼らの貴重な時間を尊重し、経営に役立つ情報を提供し、医師と経営者の両面を理解しようと努め、そして何よりも人として誠実であること。
これらは、特別な才能を必要としない、日々の「姿勢」と「行動」の積み重ねです。これらの「当たり前」を、誰よりも高いレベルで徹底することが、多忙な院長の心を開き、「あなただから会いたい」と思われるパートナーへの最短距離なのです。
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