「南田さん、なんでジェネリック(後発品)じゃなくてバイオシミラーって言うんですか? 同じでしょ?」 新人のMRによく聞かれます。 私はこう答えます。 「ジェネリックは『コピー(複製品)』だけど、バイオシミラーは『似て非なるもの(類似品)』なんだよ。だから営業の難易度が桁違いなんだ」
はじめまして。製薬メーカー営業企画の南田良平です。 2010年頃から始まったバイオ医薬品の特許切れラッシュ(パテントクリフ)。 そこに登場したバイオシミラー(BS)は、医療費適正化の救世主として期待されています。 先行バイオ医薬品(抗がん剤やリウマチ薬)は、年間数百万円もします。 これをBSに切り替えれば、医療費は何兆円も浮く計算です。
しかし、現場での普及は遅れています。 なぜか? 医師が「怖い」と思っているからです。 「本当に同じ効果が出るの?」「抗体ができて効かなくなったらどうする?」 この医師の不安(心理的バリア)を取り除くのが、私たちMRの仕事です。 本記事では、化学合成のジェネリックとは全く異なる、バイオシミラー特有の「サイエンス営業」と、病院経営を巻き込んだ「経済合理性(エコノミクス)アプローチ」について解説します。
第1章:そもそもバイオシミラーとは? ~似て非なるもの~
1. 開発と承認のハードルが高い
- 構造の違い: アスピリンのような低分子薬(化学合成)は自転車を作るようなものですが、バイオ医薬品(抗体医薬)はジェット機を作るような複雑さです。
- コスト: ジェネリックは数千万円で開発できますが、バイオシミラーは臨床試験(治験)が必要なため、開発費が数十億~数百億円かかります。そのため、参入プレイヤーは資金力のある大手製薬企業やバイオベンチャーに限られます。「安かろう悪かろう」の町工場的なメーカーは、そもそも参入できない市場構造なのです。
2. AG(オーソライズド・ジェネリック)という最強のライバル
- 競合関係: 先発メーカーが自己防衛のために出すAGは、中身が先発品と全く同じ(イコール)です。医師心理として「同じならAGがいい」となるのは当然です。
- BSの勝ち筋: では、なぜBSを選ぶのか? それは「デバイス(注射器)の改良」や「供給安定性の担保」で差別化するしかありません。「AGは先発の工場が止まれば共倒れですが、我々は自社工場を持っているので供給を止めません」というBCP(事業継続計画)の観点が、採用の決め手になります。
第2章:病院経営を揺さぶる「DPC採用」戦略
いくら「効き目は同じです」と訴えても、医師は動いてくれません。動くのは「お金」の話をした時だけです。
1. DPC病院の「係数」ハック
- 仕組み: DPC(包括払い)制度には、「後発医薬品使用体制加算」というボーナス点数があります。ジェネリックやバイオシミラーの使用率(数量シェア)が一定を超えると、入院基本料に係数が上乗せされます。
- 試算: たった1本のBSを採用することでターゲット使用率(80%など)をクリアできれば、病院全体の年間収益が数千万円アップすることもザラにあります。「先生、この薬を変えるだけで、MRIを買い換える予算が捻出できますよ」という提案は、院長や事務長に強烈に刺さります。
2. 高額療養費制度と患者負担
- 誤解: 「どうせ自己負担限度額まで行くから、患者の支払いは変わらないでしょ?」と言われます。
- 事実: 確かに「高所得者」はそうですが、「一般所得者」や「多数回該当」のケースでは、薬価が下がることで自己負担額が月数千円下がる場合があります。
- 連携: このシミュレーション結果を、MSW(医療ソーシャルワーカー)や医事課に提供してください。「経済的な理由で治療継続を悩んでいる患者さんを救えます」というロジックは、院内世論を味方につける強力な武器になります。
第3章:デバイス(注射器)で差別化せよ
中身(薬液)での差別化が難しいなら、外側(デバイス)で勝負します。 自己注射製剤(リウマチ薬など)の場合、患者さんの「使いやすさ」が選定基準になります。
1. 「痛くない針」の採用(UXの改善)
- 課題: リウマチ患者さんは手指の関節が変形し、キャップを開けたり、硬いボタンを押したりするのが困難です。
- 解決策: 「キャップをループ状にして指を引っ掛けやすくした」「針を細くして痛みを軽減した(27G→29G)」といった、ユニバーサルデザインのデバイスを開発します。
- 効果: 患者さんが「こっちの方が楽!」と言えば、医師はそれを処方せざるを得ません。患者起点(Patient Centric)のオセロゲームです。
2. サポート体制(PSP)の充実
- 課題: 医師は「自己注射の指導」をする時間がありません。
- 解決策: メーカーが費用を出して、「LINEでの服薬リマインド」や「コールセンターの看護師相談」などの患者支援プログラム(PSP)を提供します。
- 効果: 「この薬を使えば、メーカーが指導までやってくれる」という楽さを売ります。これは薬の価値を超えた「サービスの価値」です。
第4章:先行バイオ医薬品からの切り替え(スイッチ)の壁
医師の「現状維持バイアス(変えるのが怖い)」をどう突破するか。
戦略1:新規患者(ナイーブ)から攻める
- ロジック: 「既存の患者さんはそのままで結構です。来週来る『新規の患者さん』から、まずは1例だけ、BSを使ってみませんか?」
- 心理: いきなり全量切り替え(オールスイッチ)を迫ると拒否されます。「小さく試す(スモールスタート)」提案で、医師の心理的ハードルを極限まで下げます。これが「ドア・イン・ザ・フェイス」テクニックです。
戦略2:最新のエビデンス攻撃(海外データの活用)
- ロジック: 「先生、ご懸念はもっともです。しかし、スイッチ試験(NOR-SWITCH)という有名なデータがありまして、切り替えても効果・安全性に差がないことが、n=500規模で証明されています」
- 心理: アカデミックな医師ほど、個人の感想より「論文データ」に弱いです。最新の海外文献をiPadでサッと出し、「勉強熱心なMRだ」と思わせることが信頼への第一歩です。
第5章:明日から使えるアクション・チェックリスト
BS営業は、詰め将棋のようなロジックが必要です。
- [ ] 自社BSの臨床試験データ(先行品との同等性)を完璧に説明できるか?
- [ ] ターゲット病院の「後発医薬品使用体制加算」の取得状況(係数)を調べたか?
- [ ] 薬剤部が管理している「採用薬リスト」の切り替え審議スケジュールを把握しているか?
- [ ] 自己注射デバイスのモックアップ(模型)を持ち歩き、医師に触らせているか?
- [ ] 「AG」に対する自社BSの明確な差別化ポイント(デバイス、供給安定性など)をワンフレーズで言えるか?
【実録】ケーススタディ:薬剤部とタッグを組んだ採用劇
地方公立病院の事例
【課題】 化学療法(抗がん剤)のコスト削減が至上命令。 しかし、腫瘍内科の部長は「ジェネリックなんて信じない。俺は先発品しか使わん」という頑固者。 MRが何度行っても門前払い。
【戦略】 MRは医師への訪問を減らし、薬剤部長へのアプローチに集中した。 「先生の病院の購入額シミュレーションを作ってきました。BSに変えれば年間3000万円浮きます。これで薬剤師を一人雇えますよ」 薬剤部長はその資料を持って、病院の「経済課」と「院長」に直談判。 「聖域なきコスト削減」の方針の下、トップダウンで「原則BS採用」が決まった。
【結果】 腫瘍内科部長も、病院の方針には逆らえず渋々了承。 使ってみたら特に問題も起きず、「まあ、いいんじゃない」と定着。 MRは「外堀(経営陣)を埋める」ことで本丸を落とした。
よくある質問(FAQ)
Q. バイオシミラーも「安かろう悪かろう」ですか?
A. 違います。むしろ、先発品が開発された20年前より、今の製造技術の方が進化しています。最新の培養技術で作られたBSの方が、品質(純度)が高いことさえあります。「最新設備で作られたジェネリック」というイメージです。
Q. 高額療養費制度があるから、患者メリットないですよね?
A. 確かに患者さんの支払額が変わらないケースは多いです。しかし、「医療保険財政を守る(国益)」という視点は重要です。「お子さんやお孫さんの世代に、国民皆保険を残すためにご協力ください」というトークは、特に高齢の患者さんに響きます。
Q. 先発メーカーが「デバイス特許」で訴えてきました。
A. よくある泥沼です(笑)。抗体(中身)の特許が切れても、注射器(容器)の特許で守ろうとする「エバーグリーニング戦略」です。BSメーカーは、特許を回避した独自デザインのデバイスを開発して対抗します。知財部の腕の見せ所です。
Q. 抗体ができて効かなくなる(免疫原性)リスクは?
A. バイオ医薬品の宿命ですが、BSだからといってリスクが高いわけではありません。むしろ、最新の精製技術で不純物を取り除いている分、BSの方が抗体ができにくい(リスクが低い)というデータさえあります。「昔の先発品より、今のBSの方がピュアです」と自信を持って説明してください。
現場で使える!重要用語解説
- バイオシミラー (Biosimilar):
- 特許が切れたバイオ医薬品の同等/同質医薬品。先行品と品質、安全性、有効性が同等であることが証明されたもの。
- AG (Authorized Generic):
- 許諾を受けたジェネリック。先発品メーカーが承認を与え、同じ製造ラインで作られるもの。中身は先発品と完全に同じ。
- パテントクリフ (Patent Cliff):
- 特許の崖。ブロックバスター(大型薬)の特許が一斉に切れ、売上が急減する現象。製薬企業の経営危機であると同時に、BSメーカーの商機。
コラム:巨人の肩に乗って、さらに先へ
バイオシミラーは、先発メーカーが切り拓いた道(巨人の肩)に乗っています。 「人の褌(ふんどし)で相撲を取る」と揶揄されることもあります。
しかし、その「褌」をより良く改良し、より安く提供することで、医療の持続可能性(サステナビリティ)を支えているのも事実です。 「いい薬なのは分かるけど、高すぎて使えない」。 そんな経済格差(ヘルスケア・ディスパリティ)を埋めるのが、バイオシミラーの使命です。 イノベーション(新薬)も大事ですが、アクセス(普及)も同じくらい尊い。 私たちは、医療を「すべての人の手」に届ける仕事をしています。
大きな成長市場です。
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