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【完全版・詳細解説】医療機関のBCP(事業継続計画)策定と営業の関わり方

2026/02/15

【完全版・詳細解説】医療機関のBCP(事業継続計画)策定と営業の関わり方

「震度6強の地震が発生。全電源喪失」 その時、あなたが納入した医療機器は、患者さんの命を守れますか?

はじめまして。医療用ベッドメーカーで営業統括部長をしている佐藤大介です。 以前は現場の営業マンとして、病院や介護施設を走り回っていました。 現在は、慢性的な人手不足に悩む営業組織を立て直しながら、自身もプレイングマネージャーとして「災害に強い病院づくり」の提案活動を行っています。

東日本大震災、熊本地震、そして能登半島地震。 災害大国ニッポンにおいて、医療機関のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)は、もはや「努力義務」ではなく「存続条件」です。 しかし、現場の病院にお邪魔すると、立派なBCPマニュアルが金庫の奥でホコリを被っているケースがあまりにも多い。 「計画を作ること」が目的化してしまい、「実際に動けるか」が検証されていないのです。

私たち医療機器メーカーの営業は、単にモノを売るだけではありません。 「有事の際に、その機器がどう機能するか」というシナリオまで売るのが仕事です。 本記事では、机上の空論ではない、現場叩き上げの視点から見た「実効性のあるBCP」と、そこに営業としてどう食い込んでいくか(ビジネスチャンスを見出すか)について、泥臭い経験談を交えて解説します。


第1章:なぜ今、病院のBCPが「待ったなし」なのか

1. 2024年、BCP策定が「完全義務化」へ

介護施設では2024年度からBCP策定が義務化されました。医療機関もそれに追随する形になります。 これまで「忙しいから」と先延ばしにしていた事務長も、今は必死で策定に取り組んでいます。 ここが営業の最大のチャンスです。 「先生、BCPの策定、進んでいますか? 当社の製品がお手伝いできる項目がありますよ」 この一言が、閉ざされていた扉を開く鍵になります。 単なる「ベッド屋」から「経営課題の解決パートナー」へと昇格するタイミングなのです。

2. 「止まらない病院」への期待

災害時、地域住民は病院に助けを求めます。 しかし、病院自体が被災し、機能停止してしまったら? 「見殺しにするのか」という批判だけでなく、地域医療崩壊のトリガーを引くことになります。 特に透析クリニックや周産期医療センターなどは、1時間の停電すら命取りになります。 「災害時でも絶対に止めない」ためのインフラ整備(自家発電、給水、そしてバックアップ電源付き機器)への投資意欲は、かつてないほど高まっています。

3. サプライチェーン寸断のリスク

能登半島地震の際、道路が寸断され、医薬品や酸素ボンベが届かない事態が発生しました。 「在庫をどこまで持つか?」 これは「トヨタ式(ジャストインタイム)」の逆を行く考え方です。 BCPの観点からは、「無駄な在庫(備蓄)」こそが「命綱」になります。 このパラダイムシフトを理解し、「災害用備蓄倉庫のスペースも含めた提案」ができる営業マンが勝っています。


第2章:医療機器メーカーに求められる「災害対応力」

1. 「停電しても動く」の価値

私たちの主力製品である電動ベッド。 停電したらどうなると思いますか? リクライニングが動かなくなります。 「背中を上げないと呼吸が苦しい」患者さんにとって、これは拷問に等しい。 だからこそ、私たちは「バッテリー内蔵ベッド」を標準仕様に切り替えつつあります。 「停電しても3日は動きます」。この一言が、スペック表のどんな数値よりも、現場の看護師長の心を掴みます。 人工呼吸器や輸液ポンプも同様です。「バッテリーの持ち時間」が、これからの選定基準の最重要項目になります。

2. 「平時」と「有事」のデュアルユース

しかし、災害専用の高価な機材を買える病院は少ない。 そこで重要なのが「フェーズフリー(日常時と非常時の垣根をなくす)」という考え方です。 例えば、普段は患者さんのリハビリ用に使っている「ポータブル電源」を、災害時には人工呼吸器のバックアップに回す。 普段は職員の休憩室にある「キャンプ用テント」を、発熱外来のトリアージブースに使う。 「普段使いできて、いざという時にも役立つ」。 この切り口での提案が、予算の厳しい中小病院には刺さります。

3. メンテナンス契約という「安心」の担保

「災害時にメーカーの電話がつながらない!」 これが現場が一番恐れる事態です。 私たちは、BCP対応型の保守契約を用意しました。 「震度5以上を観測したら、コールがなくても自動的にサービスマンが駆けつけます(あるいは安否確認連絡を入れます)」という特約です。 これは他社との強力な差別化になります。 製品そのものではなく、「災害時のサポート体制」を売る。これぞ営業の付加価値です。


第3章:実効性のあるBCP作成のステップ

私が実際に支援に入った際のフローをご紹介します。

Step 1: ハザードマップの確認と被害想定

「ここは高台だから津波は来ないけど、土砂崩れのリスクがあるね」 「この前の大雨で地下の電源室が浸水しかけたよね」 まずはハザードマップを見ながら、その病院固有のリスクを洗い出します。 Googleマップの航空写真を広げて、事務長と一緒に指差し確認する。これだけで信頼関係が深まります。

Step 2: 重要業務の絞り込み(トリアージ)

災害時、全ての業務を継続するのは不可能です。 「外来は閉める」「予定手術は延期する」「透析と救急だけは死守する」。 この優先順位(業務トリアージ)を決めるのが一番揉めます。 ここで外部の視点(私たち)が入ることで、「他院の事例ではこうでしたよ」とアドバイスし、議論を整理できます。

Step 3: 具体的な代替案の確保

「電気が止まったら?」→「自家発電(重油で3日)」→「それが切れたら?」→「ポータブル電源と太陽光パネル」。 「水が止まったら?」→「受水槽(2日)」→「それが切れたら?」→「井戸水浄化装置」。 このように、「Plan B」「Plan C」まで具体的に落とし込みます。 ここに自社製品(例:簡易トイレ、非常食、衛星電話など)を自然な形で組み込んでいくのが、営業の手腕です。


第4章:営業現場での失敗事例と教訓

失敗1:恐怖訴求のやりすぎ

「BCPをやらないと、病院が潰れますよ!」 これは事実でも、脅しと受け取られたらアウトです。 「地域の砦としての役割を果たすために、一緒に備えませんか?」 あくまでポジティブな「使命感」に訴えるべきです。

失敗2:マニュアルを渡して終わり

「ひな形(テンプレート)を差し上げますので、名前を変えて使ってください」 これで作られたBCPは、絶対に役に立ちません。 職員が自分の頭で考え、汗をかいて作らないと、いざという時に体か動きません。 私は、院内研修会の講師を引き受け、「避難訓練」にまで参加して、一緒に汗を流すようにしています。 そこまでやって初めて、「仲間」として認めてもらえます。


第5章:明日から使えるアクション・チェックリスト

自社の提案がBCP視点になっているか、チェックしてみてください。

  • [ ] 自社製品の「停電時の挙動」を即答できるか?
  • [ ] 担当施設のハザードマップ(浸水深、土砂災害リスク)を確認したか?
  • [ ] 事務長との会話で「BCP」という単語を出し、反応を探ったか?
  • [ ] 提案に「フェーズフリー(普段使い×災害対策)」の要素を入れているか?
  • [ ] 災害時の自社のサポート体制(連絡網、代替機手配)を明文化しているか?

【実録】ケーススタディ:老朽化した療養型病院のBCP

地方の療養型病院 D院の事例

【課題】 築40年で耐震性に不安。高齢の入院患者(寝たきり)が多く、火災や地震時の避難が困難。 夜勤スタッフが少なく、垂直避難(階段で上の階へ逃げる)が絶望的。

【提案内容】 「避難させない」ためのBCPを提案。 1階を「浸水想定エリア」として、重要な機能(電源、サーバー、医薬品)を2階以上に移設。 さらに、各病室に「エアマット(水に浮き、担架代わりになる)」を導入。 ベッドごと避難するのではなく、エアマットに乗せて引きずる「スライディング搬送」の訓練を実施。

【結果】 数年後の豪雨災害時、実際に1階が床上浸水したが、重要機能は無事。 患者さんも混乱なく上階へ水平避難でき、一人の怪我人も出さなかった。 院長から「あの時の訓練のおかげだ」と涙ながらに感謝され、その後のベッド入れ替え商談は全て指名発注(特命随意契約)となった。


よくある質問(FAQ)

Q. BCP策定のコンサルフィー(報酬)はもらえますか? A. 基本は「販促費(無料)」としてやりますが、がっつりマニュアル作成までやるなら、有償コンサルとして契約することもあります。ただ、メーカー営業としては「製品を買ってもらうための投資」と割り切って、無償で信頼を勝ち取る方が、長期的にはリターンが大きいです。

Q. どこの部署にアプローチすればいいですか? A. 「施設課(用度課)」か「総務課」です。ただ、決定権は「事務長」や「理事長」にあります。現場(施設課)と仲良くなって情報を集めつつ、最終的にはトップにプレゼンする機会を狙ってください。

Q. 災害備蓄品って、消費期限管理が大変ですよね? A. そうです。だからこそ「ローリングストック(使いながら補充する)」の提案がウケます。例えば、非常食を職員食堂のメニューに定期的に出す、期限切れ近い消毒液を清掃用に回すなど、運用フローまで提案できるとベストです。

Q. クリニックでもBCPは必要ですか? A. 必要です。特に在宅療養支援診療所は、停電時も在宅患者さんの人工呼吸器を守る責任があります。大規模な計画書は不要ですが、「緊急時の連絡網」と「患者リストのバックアップ(クラウド保存)」だけは最低限やっておくべきです。これを提案するだけで、先生からの信頼度は爆上がりします。


現場で使える!重要用語解説

  • BCP (Business Continuity Plan):
    • 事業継続計画。災害などの緊急事態において、中核事業を継続、または早期復旧させるための計画。
  • フェーズフリー:
    • 日常時と非常時という2つのフェーズ(局面)を分けず、生活の質を向上させるモノやサービス。
  • トリアージ:
    • 災害時に多数の傷病者が出た際、治療の優先順位を決めること。BCPにおいては「業務の優先順位付け」を指します。

コラム:現場は「想定外」の連続

マニュアルには「震度6で対策本部長が指揮を執る」と書いてあります。 でも、その本部長(院長)がゴルフに行っていて連絡がつかなかったら? 実際にあった話です。 その時、現場を仕切ったのは、たまたま当直明けで残っていた若い事務員でした。 BCPの極意は、完璧な計画を作ることではありません。 「マニュアル通りにいかない時、誰がどう判断するか」という、現場の「対応IQ」を上げておくことです。

私たち営業も同じです。 カタログ当通りの説明しかできない営業マンは、有事には役に立ちません。 想定外のトラブルが起きた時こそ、汗をかいて現場に駆けつける。 そんな「泥臭い対応力」こそが、AIにもAmazonにも代替されない、私たちの存在価値なのだと思います。

さあ、今日もハザードマップを持って、あのお客さんのところへ行ってきます。


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