医療・ヘルスケア業界特化

地域医療連携推進法人(RMVO)の仕組みと営業の勘所

2025/12/10

地域医療連携推進法人(RMVO)の仕組みと営業の勘所

医療業界への新規参入を目指し、市場をリサーチする中で「地域医療連携推進法人」というキーワードを目にしたことはありませんか?2017年に施行されたこの比較的新しい制度は、「RMVO(Regional Medical連携推進法人)」という略称で呼ばれることもありますが、その実態や、我々企業にとってどのようなビジネスチャンスがあるのかは、まだ十分に知られていないのが現状です。

私自身、異業種からこの業界に参入した当初、この複雑な制度に頭を悩ませました。しかし、団塊の世代が75歳以上となる「2025年問題」を目前に控え、国が「病院完結型」から「地域完結型」の医療へと舵を切る今、この「地域医療連携推進法人」を理解することは、これからの医療・ヘルスケア営業において避けては通れない、極めて重要な成功要因となっています。

なぜなら、この法人は、これまでバラバラだった地域の医療機関を束ね、新しい「意思決定単位」となりうるからです。本記事では、この捉えどころのない制度の仕組みを分かりやすく解説し、我々営業担当者がどこにビジネスチャンスを見出し、どうアプローチすべきかの「勘所」を、新規参入の視点から紐解いていきます。


1. 超入門:地域医療連携推進法人(RMVO)とは何か?

まずは、この制度の全体像をシンプルに掴みましょう。

目的:地域の医療資源を「再編・効率化」するための仕組み

人口減少と高齢化が急速に進む中、限られた医療資源(医師、看護師、病床など)で質の高い医療を維持していくために、国は「地域包括ケアシステム」の構築を進めています。これは、病院での治療だけでなく、地域のクリニック、介護施設、在宅医療などが一体となって患者を支える体制のことです。 地域医療連携推進法人は、このシステムを実現するため、地域内の複数の医療機関等が参加し、医療機関の機能の分担・連携を推進するための方針(連携推進方針)を定め、連携強化に必要な業務を行う、非営利の法人格です。

簡単に言えば、**地域の病院やクリニック、介護施設などが一つのグループとなり、役割分担や連携をスムーズに行うための「司令塔」**のような存在です。

【架空の事例:一般社団法人メディカルみかわネットワーク】 愛知県東三河地域にある、中核病院A、クリニック15施設、介護老人保健施設5施設が参加するRMVO。この法人では、「糖尿病患者の重症化予防」を連携推進方針に掲げ、法人内で統一された治療プロトコルや、栄養指導プログラムを共同で開発・運用している。

参加メンバーと実施可能業務

  • 参加できるのは?:病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、訪問看護ステーションなど、地域包括ケアシステムを構成する様々な施設が参加できます。
  • どんな業務ができる?:参加医療機関の代わりに、医薬品や医療機器、消耗品の「共同購買」、医師や看護師などの「共同研修」や人事交流、さらには「巡回診療」や「患者紹介の円滑化」、各施設への資金の貸付など、非常に広範な業務を行うことができます。

2. なぜ今、RMVOが営業戦略の「キー」になるのか?

この制度の登場は、我々企業にとって、従来の営業スタイルを根底から変えるほどのインパクトを持っています。

チャンス1:意思決定の「集約化」による効率的なアプローチ

これまで、あるエリアで10のクリニックにアプローチする場合、10人の院長それぞれに営業をかける必要がありました。しかし、これらのクリニックが参加するRMVOが設立されれば、話は変わります。RMVOの「本部機能」が、参加施設全体のICTインフラ(電子カルテ、情報共有システムなど)や、高額な医療機器の選定に、大きな影響力を持つようになるからです。 RMVOの理事長や事務局長といったキーパーソンを攻略できれば、一度の提案で、参加施設全体への水平展開が期待できるのです。これは営業生産性の飛躍的向上に繋がる一方、もし本部との関係構築に失敗すれば、そのエリアの市場から一度に締め出されるリスクも内包していることを意味します。

チャンス2:「共同購買」という新たな巨大チャネル

RMVOの主要業務の一つに、「医薬品、医療機器等の共同購買」があります。これは、参加施設が必要とする物品を、RMVOがまとめて購入することで、価格交渉力を高めるための仕組みです。 我々ベンダー側から見れば、これは**「巨大な共同購買チャネル」の誕生**を意味します。個々の施設に細かく販売するのではなく、RMVO本部との交渉で、年間のまとまった数量の契約を獲得できる可能性があります。特に、電子カルテシステム、患者モニタリング機器、画像診断装置といった、地域で標準化するメリットが大きい製品にとっては、極めて重要なチャネルとなり得ます。

チャンス3:法人が創出する「新規事業」との協業

RMVOは、非営利法人でありながら、連携推進業務に支障のない範囲で、自ら収益事業を行うことも認められています。例えば、参加施設向けの配食サービス、職員向けの福利厚生サービス、地域の医療データを活用した分析サービス、住民向けの健康増進事業などです。 こうした新規事業の立ち上げにおいて、我々民間企業が持つ事業開発ノウハウや、IT、物流、マーケティングなどのソリューションは、非常に魅力的なパートナーとなり得ます。RMVOの事業計画をリサーチし、協業できる領域を探すことで、これまでにない新しいビジネスを創出できる可能性があります。


3. RMVOへのアプローチと営業の「勘所」

では、この新たなプレイヤーであるRMVOに対し、我々はどうアプローチすれば良いのでしょうか。

Step 1: 情報収集 ― 誰が、どこで、何を考えているか

まず、自社のターゲットエリアに、どのようなRMVOが存在するのかを把握する必要があります。厚生労働省のウェブサイトや、各都道府県の「医療法人・医療計画」関連のページで、認定法人のリストと定款が公開されています。 次に、そのRMVOの「キーパーソン」と「方針」を読み解きます。

  • 理事長は誰か? (多くの場合、中核となる病院の院長が兼任しています)
  • 本部機能はどこにあるのか?実務を担う事務局長は誰か?
  • 定款に書かれた「連携推進方針」は何か? (例:「在宅医療の強化」「救急患者受け入れ体制の整備」「生活習慣病の重症化予防」など、ここが提案の最大のヒントになります)

Step 2: 提案の視点を「地域最適」へシフトする

RMVOへの提案で最も重要なのは、「個別の病院のメリット」ではなく、「地域全体の医療がどう良くなるか」という視点で語ることです。

【提案のBefore/After】 Before(従来型):「貴院にこの高機能MRIを導入すれば、検査の精度が上がります」 After(RMVO向け):「このエリアの中核病院である貴院に高機能MRIを導入し、地域のクリニックからは検査予約をオンラインで受け付ける共同利用の仕組みを構築しませんか?これにより、地域全体の診断レベルが向上し、不要な2次救急搬送を減らすことができます。我々はその予約・画像共有システムの構築・運用もお手伝いできます。これが実現すれば、法人全体の収益性向上と、地域における貴法人のブランド価値向上に直結します」

Step 3: 「パートナー」としての参画を模索する

一部のRMVOでは、我々のような一般企業も「社員(正会員)」や「賛助会員」として参画できる場合があります。これは、単なるベンダーとして物品を納入するのではなく、法人の運営そのものに関与し、地域医療の課題解決に主体的に取り組む、最も深いレベルのパートナーシップです。

  • メリット: 内部情報へのアクセス、深いレベルでの関係構築、共同での事業開発機会。
  • デメリット: 会費などのコスト、特定の法人とのコミットメントによる他法人への営業機会の損失リスク。 自社のビジョンと法人の理念が合致する場合、このような関わり方も視野に入れるべきでしょう。

4.【新設】全国の先進的なRMVO事例紹介

RMVOの活動は、地域によって様々です。ここでは、先進的な取り組みで知られる実在の法人をいくつかご紹介します。

  • 医療法人財団 互恵会(高知県): 「えひめ-こうち連携推進法人」の中核法人。災害時医療やへき地医療支援、医療従事者の共同研修などを通じ、県境を越えた広域連携を実現しています。
  • 公益財団法人 筑波メディカルセンター(茨城県): 地域の医療機関との間で、全国に先駆けて診療情報ネットワーク「いばらき安心ネット」を構築。患者情報をシームレスに共有する基盤を整えています。
  • 社会福祉法人 聖隷福祉事業団(静岡県): 地域のクリニックや介護施設と密に連携し、急性期から回復期、在宅まで一気通貫のケアを提供する「地域包括ケア」のモデルケースとして知られています。

これらの事例を研究することで、RMVOが目指す方向性や、ビジネスチャンスのヒントが見えてきます。


まとめ

地域医療連携推進法人は、これからの日本の医療提供体制の核となる、極めて重要な存在です。その動きをいち早く察知し、アプローチできる企業だけが、次の時代の医療・ヘルスケアビジネスの勝者となり得ます。個々の施設を攻略する「点」の営業から、地域全体を俯瞰し、最適なソリューションを提案する「面」の営業へ。今、我々のビジネスモデルそのものの変革が求められています。

自社製品を、新しい地域連携の仕組みの中でどう位置づけ、提案していくべきか。もし、こうした戦略の策定にお悩みでしたら、私たちにご相談ください。複雑な制度を読み解き、貴社にとっての最適なアライアンス戦略と営業アプローチを共に考えます。 新規参入・アライアンス戦略に関するご相談はこちら

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