大学病院を担当するようになってから、一番悩んだのが「メール」でした。先生方はとにかく多忙で、分厚い提案書を添付した長文メールはまず読んでもらえません。かといって、事務的な連絡ばかりでは、その他大勢の営業に埋もれてしまいます。いかに簡潔に、いかに相手の時間を奪わずに、用件と価値を伝えられるか。試行錯誤の末にたどり着いた、効果的なメールの「型」があります。
この資料では、私が実際に現場で使い、アポイント獲得や関係構築に繋がった10のシーン別メールテンプレートを、具体的な解説とNG例を交えてご紹介します。日々のメール作成時間を短縮し、本来注力すべき提案活動に時間を割くための一助となれば幸いです。
医療業界メール「5つの大原則」
テンプレートの前に、全てのメールに共通する基本思想を共有します。この原則を押さえるだけで、あなたのメールは劇的に変わります。
- 【相手の時間を奪わない】: 医師や医療従事者の時間は、患者さんのためのもの。メールは、相手が30秒で読める簡潔さを常に意識します。伝えたいことが多い時ほど、箇条書きや段落分けを工夫しましょう。
- 【価値を提供する】: あなたのメールは、相手にとって「読む価値」がありますか?単なるお願いや宣伝ではなく、相手の研究や業務に役立つ情報(論文、ニュース、事例など)を提供する「GIVE」の精神が、信頼関係の土台となります。
- 【パーソナライズする】: 「先生」や「ご担当者様」ではなく、「〇〇大学の〇〇先生へ」と、個人宛に書かれていることが明確にわかるようにします。相手の論文や専門分野に触れることで、「あなただから連絡した」という特別感を演出します。
- 【次のアクションを明確にする】: 相手に何をしてほしいのか(返信、日程調整、資料確認など)を明確に記載します。相手が迷わず、最小限の労力で次の行動に移れるように導線設計することが、敏腕営業の証です。
- 【プロフェッショナルである】: 誤字脱字は論外。敬意を払った言葉遣い、機種依存文字の回避、署名の整備など、ビジネスメールの基本を徹底することが、あなたと会社の信頼性を担保します。
1. 新規アポイント獲得メール
目的:面識のない医師に対し、面談の価値を感じさせ、具体的な日程調整に繋げる
OK例
件名:【株式会社〇〇・小林】〇〇(製品名)が先生のご研究テーマに貢献できる可能性について
〇〇大学医学部 〇〇科 教授 〇〇 〇〇 先生
突然のご連絡失礼いたします。 株式会社〇〇で、医療機器「〇〇」を担当しております小林と申します。
先生が先日発表された「△△」に関する論文を拝見し、 特に「□□」という点に大変感銘を受けました。
弊社の「〇〇」は、先生がご研究で課題とされている「◇◇」の効率化に 貢献できる可能性があると考えております。 (製品サイトURL: http://…)
つきましては、一度、5分だけでも先生のお時間をいただき、 本製品が先生の研究にどのように貢献できるか、ご説明の機会をいただけますでしょうか。
下記の日程でしたら、いつでも調整可能です。 ・〇月〇日(月)13:00-15:00 ・〇月〇日(火)終日 ・〇月〇日(水)10:00-12:00
ご多忙の折、大変恐縮ですが、ご検討いただけますと幸いです。 何卒よろしくお願い申し上げます。
3つのポイント
- 件名で「誰が」「何の用件で」を明確に: 多くのメールに埋もれないよう、社名、氏名、用件を記載。
- 「あなたに」送っている理由を示す: 論文や学会発表に触れることで、「一斉送信ではない」ことを伝え、敬意を示す。
- 相手のアクションを最小限に: こちらから候補日時を複数提示し、相手が「〇日の〇時で」と返信するだけで済むように配慮する。
件名のバリエーション
〇〇大学 〇〇先生へ:△△の効率化に関するご提案【株式会社〇〇】【情報提供】先生のご研究領域における〇〇(製品名)の活用事例
+αの工夫
- 署名欄に、自身の顔写真や、簡単なプロフィール(実績や担当領域など)へのリンクを貼っておくと、親近感と信頼性が増します。
- 日程調整ツール(TimeRexなど)のURLを併記すると、相手がカレンダーから直接予約でき、やり取りがさらにスムーズになります。
NG例
件名:新製品のご案内
〇〇先生 お世話になります。株式会社〇〇の小林です。 この度、画期的な新製品「〇〇」が発売されましたので、ご案内させていただきます。 製品の詳細は添付の資料(3MB)をご確認ください。 ご興味がございましたら、ぜひ一度ご説明の機会をいただきたく…
(NG理由)
- 件名が平凡: スパムメールと誤解され、開封されない可能性が高い。
- 冒頭が他人行儀: 「お世話になります」は面識のある相手に使う言葉。
- いきなり添付ファイル: ウイルスを警戒され、開封されない。そもそも添付ファイルを開く手間をかけさせることがNG。
- 「ご興味があれば」: 相手に判断を丸投げしており、こちらの熱意が感じられない。
(以降、各項目で同様に拡充)
8. 【新設】検討停滞・失注後のフォローメール
目的:商談が止まっても関係を止めない。未来のチャンスに繋げる
OK例(検討停滞時)
件名:【株式会社〇〇・小林】〇〇に関するアップデート情報のご提供
〇〇様 ご無沙汰しております。株式会社〇〇の小林です。 先日は「〇〇」の件で貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
その後、ご検討状況はいかがでしょうか、とお伺いする前に、1点アップデート情報がありご連絡いたしました。 以前、〇〇様が懸念点として挙げておられた「△△の操作性」について、 この度のアップデートで、□□のように改善され、より直感的な操作が可能となりました。
本件、また何か進展がございましたら、情報交換させていただけますと幸いです。 季節の変わり目ですので、どうぞご自愛ください。 (ご返信には及びません)
OK例(失注時)
件名:【株式会社〇〇・小林】この度の選定結果について
〇〇様 この度は、貴重な機会をいただき、誠にありがとうございました。 また、選定結果について、ご連絡いただき感謝申し上げます。
今回は残念ながら貴院のお力になることはできませんでしたが、 〇〇様の課題解決に向けて、真剣に議論させていただいた時間は、 私にとりましても大変大きな学びとなりました。
もし最後にご迷惑でなければ、今後の私自身の成長のため、 今回、弊社のご提案に至らなかった点を1つでもお教えいただけましたら、望外の喜びです。 (もちろん、ご無理なようでしたら、このまま忘れていただいて結構です)
今後、また別の機会で、貴院のお役に立てる日が来ることを願っております。 末筆ではございますが、貴院の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。
ポイント
- 停滞時: 「どうなっていますか?」という催促ではなく、「新しい価値」を提供することで、連絡の正当性を作る。
- 失注時: 感謝を伝え、潔く引き下がる。その上で「学びたい」という謙虚な姿勢でフィードバックを請うことで、相手に好印象を残し、次の機会に繋げる。
9. 【新設】複数部署への連携依頼メール
目的:関係者が複数にまたがる場合、全員の認識を揃え、プロジェクトを前に進める
OK例
件名:【株式会社〇〇】「〇〇」導入に関する連携のお願い(〇〇科・情報システム部 御担当者様)
〇〇科 部長 〇〇 様 情報システム部 課長 △△ 様
いつもお世話になっております。株式会社〇〇の小林です。 先日は、〇〇科の〇〇様とお打ち合わせの機会をいただき、誠にありがとうございました。
その際、本製品「〇〇」の導入にあたり、情報システム部様との連携が不可欠であると伺いました。 つきましては、一度、〇〇科様と情報システム部様、弊社の三者にて、 本製品の仕様や、貴院のセキュリティポリシーとの整合性について、 ディスカッションさせていただく機会を頂戴できますでしょうか。
【主な議題案】
- 「〇〇」の概要と、〇〇科における活用イメージ(弊社・〇〇科様)
- データ連携の仕様と、セキュリティ要件について(弊社・情報システム部様)
- 導入に向けた今後のステップと役割分担の確認(三者)
〇月〇日〜〇日の間で、皆様のご都合の良い時間を30分ほどお教えいただけますと幸いです。 お忙しいところ恐縮ですが、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。
ポイント
- 宛名: 関係者全員を明確に記載する。
- 経緯の説明: なぜ、このメンバーで会議が必要なのか、経緯を簡潔に説明する。
- 議題の提示: 会議のゴールが明確になるよう、議題案を事前に提示する。
10. 【新設】イベント・セミナー後のフォローメール
目的:一対多の接点の熱量を、一対一の具体的な商談へと転換させる
OK例
件名:【〇〇セミナーご参加御礼】株式会社〇〇より・当日の資料送付
〇〇様
先日は、弊社主催の「〇〇」Webセミナーにご参加いただき、 誠にありがとうございました。株式会社〇〇の小林です。
当日の投影資料を、ご参加いただいた皆様にお送りしております。 今後の情報収集などにお役立ていただけますと幸いです。 [資料ダウンロードURLはこちら]
特に、セミナー内でご紹介した「△△」の機能について、 もし個別にご状況を伺いながら、より詳細なご説明やデモをご希望でしたら、 下記URLより、お気軽にご希望の日時をご予約ください。 [個別相談ミーティング予約URLはこちら]
今後とも、皆様のお役に立つ情報を発信してまいります。 引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
ポイント
- 一斉配信と個別対応の組み合わせ: まずは参加者全員に一斉配信で資料を送付する。その上で、セミナー中に質問をくれた人や、アンケートで「興味あり」と答えてくれた人には、個別でパーソナライズしたメールを別途送るとさらに効果的。
- 明確なCTA(Call to Action): 「興味があれば連絡ください」ではなく、「個別相談はこちらから予約」と、具体的な次の行動を促す。
まとめ
医療業界のメールは、他の業界以上に「相手への配慮」が求められます。多忙な相手の時間を尊重し、一目で価値がわかる件名と本文を心がけるだけで、返信率は大きく変わります。これらのテンプレートをベースに、あなた自身の言葉で、誠意の伝わるメールを作成してみてください。
メールの書き方一つで、営業成果は変わります。より高度なコミュニケーション研修にご興味があれば、こちらもご覧ください。
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