ヘルスケアサービス企業で営業部長を務めています。代理店任せの営業が頭打ちになり、直販も思うように成果が出ず、管理も不十分。そんな状態から立て直す過程で、数え切れない失敗をしました。大阪・関西・近畿の病院を回り、支援会社や代行会社、コンサルとも組みながら医療・ヘルスケア領域の販路開拓と営業・事業開発を進めた経験をベースにしています。2024〜2025年のトレンド(医療DX・生成AI、病院再編、働き方改革、ガバナンス強化)を前提にしています。
1. 失敗事例と回避策(10選)
失敗1:審査資料の後出しで3か月遅延
倫理・情報セキュリティ審査の資料(データフロー、ログ、責任分界、PoC計画)を初回で出せず、審査サイクルを逃しました。
回避策:技術資料をテンプレ化し、初回で不足を洗い出して1週間で埋める。審査日を必ず確認し、カレンダーに登録。
失敗2:看護部の教育工数を軽視して拒否
「手順は簡単です」と説明し、夜勤帯の実務を見ずに進めて反発を受けました。
回避策:夜勤・休日シフトを見学し、教育計画を15分動画+15分ハンズオンで設計。問い合わせ窓口を明示する。
失敗3:価格勝負に逃げて赤字受注
値下げで稟議を通したものの、運用負荷とサポートコストで赤字に。
回避策:稟議資料に運用価値(時間外削減、教育工数削減、TCO低減)を入れ、回収期間を示す。価格以外の評価軸を用意する。
失敗4:代理店に丸投げしてブランド毀損
代理店任せで提案品質がばらつき、院内でクレームが発生。
回避策:代理店とSLA(応答時間、デモ機管理、報告頻度)を締結し、技術資料とトークを標準化。月次で同行とレビューを行う。
失敗5:キーマンを誤る
診療科の先生とだけ話し、情報部やMEに後から止められました。
回避策:初回で情報部/CIO、ME機器管理室、看護部、経営企画に必ず挨拶し、データ・安全・運用・KPIの視点を先に揃える。
失敗6:スケジュールの甘さで信頼を失う
「来週お送りします」と言って2週間かかり、信頼低下。
回避策:納期は余裕を持って約束し、遅れる場合は前日までに連絡と代替日を提示。小さな約束を守る。
失敗7:情報持ち出しへの配慮不足
院内資料を個人PCで持ち帰りそうになり、情報部から厳重注意。
回避策:院内貸出PCを利用し、USBは使わない。議事録も院内指定の共有手段のみで扱う。
失敗8:横展開の絵がなく「まず1病院で」止まり
単院導入の話しかなく、予算がつきませんでした。
回避策:グループ病院へのスケール手順(契約・教育・データ移行・サポート)を1枚で提示。経営企画に「今年やる理由」を作る。
失敗9:時間オーバーで会議を乱す
質疑が長引き、次の議題に迷惑をかけました。
回避策:タイムラインをスライドで示し、質疑が延びたら「持ち帰り項目」を整理して終える。
失敗10:代理店の反社チェック漏れ
反社チェックの不足で、取引見送りになりました。
回避策:代理店選定時に反社・財務・医療実績を確認し、定期レビューを実施。契約で再委託禁止やデータアクセス範囲を明文化。
2. トレンド別に強化したポイント(2024〜2025)
- 医療DX・生成AI:監査ログと根拠提示UI、モデル更新手順を先出し。閉域網やオンプレ対応の可否を明確に。
- 病院再編・中期計画:重点診療科(救急・循環器・脳卒中・がん)に効く効果を前面に。中期計画2025〜2027との整合を必ず明記。
- 働き方改革:時間外削減を週・月・年で数字化し、看護部と情報部両方に刺さるメッセージに。
- コスト圧力・TCO:保守・教育・運用負荷を透明化し、セルフメンテとリモートサポートで保守費を下げる提案をセットに。
- ガバナンス強化:反社・利益相反・内部統制、改訂履歴の管理を明文化。資料後出しはしない。
3. 30・60・90日で立て直したステップ
0〜30日
- キーマンマップと審査スケジュールを院別に整理。
- 技術資料(データフロー、ログ、更新ポリシー、責任分界)とPoCテンプレを標準化。
- 代理店のSLAと報告フォーマットを整備し、反社チェックを更新。
31〜60日
- 上位病院でPoCを3件合意。評価指標(時間削減・安全性・TCO・患者体験)を決定。
- 生成AIで提案初稿・議事録要約を回し、週次で詰まりを潰す。
- 代理店同行を増やし、トークと資料を現場で磨く。
61〜90日
- PoC結果を稟議セットに格納し、回収期間と運用価値を提示。
- L1/L2サポート、教育・再教育、リリース管理、障害時フローを文書化。
- グループ病院への横展開プランを提示し、追加予算と人員を確保。
4. トークスクリプト(相手別)
- 情報部/CIO向け:「データは院内閉域で完結し、ログは10年保存。モデル更新は四半期ごとの審査を経て実施します。責任分界はこちらです。」
- ME/臨床工学向け:「既存機器と干渉しないテスト計画とリモートサポート手順を用意しました。一次対応は弊社、二次対応は専門チームです。」
- 看護部向け:「夜勤帯の入力を週○時間削減できます。初回教育1時間、夜勤向け再教育15分、問い合わせ窓口は平日+オンコールで対応します。」
- 経営企画・事務長向け:「時間外削減と在院日数への影響を試算し、回収期間は○か月です。重点診療科で先行導入し、グループ病院に横展開するプランです。」
5. 代理店との付き合い方(頭打ちから再成長へ)
- SLAの明文化:応答時間、デモ機管理、報告頻度、再委託禁止、データアクセス範囲を契約に盛り込む。
- 週次の情報共有:案件ステージ、リスク、次アクションを共有し、トークと資料を標準化。
- 同行とフィードバック:月1〜2回同行し、良かった点と改善点を即共有。
- 表彰とペナルティ:成果に応じたインセンティブと、重大違反時のペナルティを事前に合意。
- 教育キットの提供:技術資料、FAQ、ログの説明方法、倫理・情報審査の流れをまとめたキットを配布。
6. よくある質問(Q&A)
Q:どこから回ればいいですか?
A:情報部とME機器管理室を早めに巻き込むと後工程が早くなります。看護部・薬剤部は運用負荷を握るのでPoC前に必ず面談します。
Q:価格を下げれば早く通りますか?
A:短期的には通るかもしれませんが、運用負荷と保守コストで赤字になりがちです。運用価値を数字で示し、回収期間を提示する方が健全です。
Q:失注したら何を残すべきですか?
A:差し戻し理由、部門別の懸念、資料不足、スケジュールのボトルネックを記録し、次の初回訪問で埋めるリストを作ります。失注直後に次の病院の予定を入れると勢いが切れません。
7. 日々のルーティン
- 初回訪問直後に「聞けなかったこと」を3つメモし、翌日までに回収。
- 週末に失注・差し戻しの理由を見返し、翌週試す仮説を1つ決める。
- 議事録を当日中にAIで要約し、関係者へ共有。
- 病院のカフェで5分、「誰の不安を減らせたか」を自問。
- 代理店のSLAと実績を月次でレビューし、改善策を合意。
8. まとめ
失敗は必ず起きますが、記録し、仕組みで潰せば再現性が生まれます。資料後出しをやめ、キーマン合意を先に取り、運用価値を数字で示す。それだけで審査の遅延と価格競争の泥沼から抜け出せました。今日も院内のカフェで5分だけ振り返ります。「誰の時間を減らせたか」「どの懸念を潰せたか」。答えが一つでも浮かべば、次の訪問は前に進みます。また病院へ。***
9. ケーススタディ:失敗から再起までの2例
ケースA:情報セキュリティ審査で差し戻し
初回でデータフローとログ仕様を出せず、審査サイクルを逃して3か月遅延。再訪問で情報部と倫理委員会に同席いただき、データ分類、保存場所、アクセス権、モデル更新、責任分界を明文化。1週間で不足資料を提出し、次の審査で通過。資料後出しがいかに致命傷かを痛感しました。
ケースB:代理店の不適切対応
代理店が院内ルールを守らず、看護部からクレーム。SLAに反社・再委託禁止、データアクセス範囲を明文化し、研修を実施。週次報告と月次同行をセットにして、3か月でクレームゼロに。代理店はパートナーであり、契約と教育で品質を揃えることが重要でした。
10. チェックリスト(50項目の抜粋15)
- 倫理・情報審査の開催日を初回で確認したか
- データフロー、ログ、責任分界、更新ポリシーを初回で提示できるか
- PoCの目的・期間・評価指標・撤退条件を明文化したか
- 中期計画と重点診療科に紐づけたか
- 時間外削減と回収期間を数字で示したか
- 教育計画(夜勤・新人)と問い合わせ窓口を提示したか
- 反社チェックを代理店含め実施したか
- SLA(応答時間、報告頻度、再委託禁止、データアクセス範囲)を結んだか
- デモ機の設置・回収・清掃手順を明文化したか
- 資料後出しにならないよう事前送付をしたか
- 持ち時間と質疑時間を事務局と合意したか
- 代替フローと障害時対応を説明したか
- 横展開プランを1枚で示したか
- 失注・差し戻し理由を記録し、次の仮説を準備したか
- 「誰の時間を減らすか」を一言で言えるか
11. 2024〜2025トレンド別ワンポイント
- 生成AI:監査ログ、根拠提示UI、モデル更新審査を先出し。データ持ち出し禁止設定も明記。
- 病院再編:グループ横展開の標準プロトコルと教育キットを提示し、「今年やる理由」を中期計画と結びつける。
- 働き方改革:時間外削減を週・月・年で数字化し、看護部と情報部の双方に刺さるメッセージに。
- コスト圧力:セルフメンテとリモートサポートで保守費を抑える案をセットで。
- ガバナンス:反社・利益相反・内部統制への対応を明文化し、資料後出しをしない。
12. 追加の一言メモ
・約束した期限は短めに、実際は余裕を持つ。守れない約束は最初からしない。
・「簡単です」は禁句。具体的な手順と時間を示して安心していただく。
・失注連絡をもらった直後に、次の訪問予定を入れる。勢いを切らさない。
・資料は1セットで全員分(情報、ME、看護、経営企画、購買)を用意し、後出しをゼロにする。
・病院のカフェで飲むコーヒーは、高価な広告より信頼を生むと信じている。***
13. 30・60・90日プランの細部(チェック付き)
0〜30日
- 審査資料テンプレをアップデート(データフロー、ログ、更新ポリシー、責任分界)。
- 全病院の倫理・情報審査日をカレンダー化し、警告を設定。
- 代理店SLAの改訂案を作成し、週次共有会の議事テンプレを用意。
- キーマンマップを病院ごとに描き、部署名・氏名・懸念をメモ。
31〜60日
- PoCを3件動かし、評価指標の進捗を週次で可視化。
- 生成AIで提案初稿・議事録要約を自動化し、ドキュメント版を情報部に共有。
- 看護部・情報部との10〜15分定例を設定し、教育・セキュリティ懸念をその場で潰す。
- 代理店同行を月2回以上設定し、トークとデモの品質を揃える。
61〜90日
- PoC結果を稟議セットに格納し、回収期間と働き方効果を数字で示す。
- L1/L2サポート体制と代替フローを文書化し、問い合わせ窓口を1枚にまとめて配布。
- グループ病院への横展開プラン(契約・教育・データ移行・サポート)を提示し、追加予算確保。
- 失注・差し戻しログをレビューし、次期の提案テンプレを改訂。
14. 代理店との実務オペレーション改善
- 週次報告のフォーマット化:案件ステージ、リスク、次アクション、必要資料、責任者を5項目で報告。
- デモ機管理の共通カレンダー:貸出・回収・清掃・保守を登録し、滞留を防止。
- インシデント報告のSLA:24時間以内に一次報告、72時間以内に再発防止策を提出するルールを設定。
- 合同研修:月1回、キーマンマップの更新とトークのロールプレイを実施。
- 表彰・ペナルティ:コンプライアンス遵守と成果に対しインセンティブ、重大違反には契約上のペナルティを明記。
15. 失注を「次の勝ち筋」に変える手順
- 即時記録:失注理由、差し戻し項目、部門別の懸念、審査スケジュール上のボトルネックを当日中に記録。
- 仮説化:次の病院で試す改善策を3つ書き出す。
- テンプレ更新:提案書とPoC計画の該当箇所を修正し、チームに共有。
- 次アポ確保:落ち込む前に、次の病院の初回面談日を入れる。
- 相談:情報部や看護部に「何が足りなかったか」を率直に聞き、フィードバックを反映。
16. さいごにもう一歩だけ
営業部長として、失敗は避けられませんでした。それでも、記録し、仕組みで潰し、次に試す。この繰り返しで遅延も価格競争も減りました。今日も院内のカフェで5分だけ振り返ります。「誰の時間を減らせたか」「どの懸念を潰せたか」。答えが一つでもあれば、次の訪問は必ず前に進みます。
また病院へ。
17. 最後のメモ
- 「もう一人同席させてください」は必ず事前に相談。
- 期限は短く約束し、余裕を持って提出する。
- コーヒー1杯の時間を、次の改善アイデアに使う。
- 失敗談をチームで共有すれば、次の誰かの失敗を未然に防げる。
- 次の病院でも、「誰の時間をどれだけ減らせるか」を最初に伝える。
追加リソース
失敗を減らす仕組みづくりや伴走型支援の進め方はLPで詳しく紹介しています。稟議セットやSLA例は詳しくはこちらからご覧ください。
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