医療・介護領域のコンサルとして、病院と介護施設を長年担当しています。医療業界のマナーは「暗黙の了解」が多く、知らずに踏み外すと一瞬で信頼を失い、その後の関係回復に時間がかかります。ここでは、私自身の失敗と学びをもとに、大学病院や大規模病院で営業する際のマナーとルールを整理しました。大阪・関西・近畿での経験を基に、支援会社や代行会社、コンサルが関わるケースにも触れながら、営業・事業開発・販路開拓の現場に役立つ内容をまとめています。2024〜2025年のトレンド(ガバナンス強化、医療DX・生成AI、病院再編、働き方改革)を踏まえ、最新の注意点も盛り込みます。
1. 訪問アポイントと受付での基本
- 事前連絡の徹底:訪問は必ず事前に日時と用件を共有し、当日の同行者も明記します。同行者変更は直前でも連絡します。
- 身分証と名刺:受付で身分証提示を求められるケースが増えました。名刺は感染対策で受け渡しを控える施設もあるので、事前に電子名刺も用意します。
- 進行ルールの確認:会議室利用、写真撮影禁止、録音禁止、Wi-Fi利用可否など、受付で必ず確認。勝手な記録は厳禁です。
2. 面談時のマナーとNG行為
- 時間厳守:開始・終了時刻を守る。延長が必要な場合は、終了5分前に可否を確認します。
- 服装と衛生:クールビズの範囲でも清潔感を優先。白衣エリアでは手指消毒、必要に応じて着替えや帽子着用。香水や強い整髪料は避けます。
- 電子機器の扱い:PC持ち込み可否、院内Wi-Fi利用の可否を確認。USBメモリは基本使用不可。デモ機は事前に承認を取り、滅菌や清拭ルールに従います。
- 録音・撮影の禁止:議事録目的でも録音は避け、必要なら事前に許可を書面で取ります。
- 情報の取り扱い:患者情報や院内情報を聞いても記録しない。議事録は個人が特定されない形でまとめ、共有範囲を合意します。
3. 持参資料と伝え方のポイント
- 最小限で要点を:部数は必要分だけ。紙資料は回収の有無を確認し、紙を残さない方針の病院では電子送付に切り替えます。
- データフローと責任分界を先出し:医療DXや生成AIを含む場合、データ経路・ログ・更新手順・責任分界を冒頭で示すと安心されます。
- ワークフロー図を丁寧に:看護部や臨床工学は運用のリアルを見ています。夜勤や新人教育を含めたフロー図を用意します。
- 費用対効果を数字で:時間削減→人件費換算、回収期間、TCO(導入・保守・教育・運用)を明示します。
4. 許可・承認が必要な行為
- デモ機持ち込み・設置:ME機器管理室や臨床工学の許可を得て、設置条件と清拭手順を確認。勝手な電源利用は厳禁。
- 機器の電源投入・院内ネット接続:情報部の許可が必須。閉域網や検証用ネットワークを案内された場合は、指示に従います。
- 試供品・サンプル提供:薬剤部や看護部、倫理委員会の許可が必要なケースがあります。提供数・期間・回収方法を明記します。
- 院内撮影・図面持ち出し:書面承認がない限り実施しない。図面や配置情報も同様です。
5. 言葉遣いと立ち振る舞い
- 役職よりも敬意を優先:先生、看護部長、技士長など敬称を正しく。若手でも「○○さん」「□□先生」と呼び、フラットな口調を避けます。
- 遮らない・被せない:発言を遮ると強い不快感を与えます。質問は相手が話し終えてから。
- 専門用語のすり合わせ:医療用語とIT用語の解釈差がある場合は図で確認します。
- 謝罪と修正を迅速に:ミスや遅延があれば、その場で謝意を示し、修正計画と期限を伝えます。
6. 情報セキュリティとコンプライアンス
- デバイス管理:個人PCやUSBは禁止の施設が多い。貸出端末や院内用アカウントの利用に従います。
- ログとアクセス権:誰が何を見られるかを明示。監査ログの保存期間と閲覧権限を示します。
- モデル更新とデータ学習:生成AIを含む場合、院内データを学習に使わない設定、更新審査とロールバック手順を説明します。
- 反社・利益相反:反社チェック、利益相反、贈答・接待の禁止を徹底。金銭・物品提供は病院の規定に従い、グレーな提案はしない。
7. 働き方改革と現場負荷への配慮
- 時間外削減を意識したアポ取り:朝の申し送り直後、夕方の業務終了間際を避け、休憩時間を侵食しない。
- 短時間で目的を達成:15〜30分で終えられるアジェンダを用意し、不要な説明を省く。
- 教育負荷を減らす:初期教育を短く、再教育・新人教育をオンデマンドで提供。問い合わせ窓口を明確にし、夜勤向けのサポートも準備します。
- 心理的安全性:インシデントや課題を共有いただいた際は否定せず、感謝を伝え、改善案を提案します。
8. 2024〜2025の最新トピックとマナー
- 病院再編:再編前後で人事や体制が変わるため、役職名を確認し、古い呼称を使わない。
- AI倫理と透明性:説明責任を果たすため、根拠提示UIと監査ログを前提に話す。
- 紙から電子への移行:紙配布禁止の病院が増えています。電子配布と事前送付を基本に。
- リモート会議の増加:録画の可否、チャットログの扱いを事前に確認し、不要な録画はしない。
9. よくある失敗と回避策
- 倫理・情報審査の資料不足で差し戻し:データフロー、ログ、責任分界、PoC計画をテンプレ化し、初回で出せるようにします。
- 看護部の教育工数を軽視して拒否:夜勤帯の業務を見学し、教育計画を一緒に作ると態度が変わります。
- 勝手な撮影・録音で信頼を失う:許可があっても、再度その場で確認し、不要なら行わない。
- 時間オーバー:事前に時間配分を決め、質疑が長引く場合は持ち帰り項目を整理して終了します。
- 名刺切れや資料忘れ:予備を携帯し、電子版も用意しておくと安心です。
10. チェックリスト(抜粋20項目)
- 訪問日時・同行者を事前連絡したか
- 受付でのルール(撮影・録音・Wi-Fi・PC持ち込み)を確認したか
- デモ機持ち込みの許可を取得したか
- 資料は必要部数と電子版を用意したか
- データフロー・ログ・責任分界・PoC計画を初回で提示する準備があるか
- 持ち時間と質疑時間を事務局と合意したか
- 教育計画(夜勤・新人向け)と問い合わせ窓口を明確にしたか
- 時間外削減を数字で示せるか
- 反社・利益相反・贈答ルールを確認し、遵守したか
- 役職名と呼称を最新にアップデートしたか
- 録音・撮影の可否を確認し、不要なら行わないか
- 議事録の共有範囲と方法を合意したか
- 横展開プランを1枚で示せるか
- 中期計画と重点診療科に沿った効果を説明できるか
- TCO(導入・保守・教育・運用)を説明できるか
- 代替フローと障害時対応を提示したか
- 事前送付が可能なら48時間前に資料を送ったか
- 持ち帰り項目と次回日程を決めたか
- 名刺・身分証を携帯したか
- 「誰の時間を減らすか」を一言で言えるか
※実際は50項目で運用しています。
11. 日々のルーティン
- 初回訪問後、5分で「聞けなかったこと」を3つメモし、翌日までに回収。
- 週末に失注・差し戻しの理由を見返し、改善策を翌週に試す。
- 議事録を当日中にまとめ、個人が特定されない形で共有。
- 病院のカフェで5分、「誰の不安を減らせたか」を自問。
- 職員の呼称や体制変更を月1でアップデート。
12. さいごに
医療業界のマナーは、相手への敬意と時間の尊重がすべてです。小さな約束を守り、資料を後出しにせず、懸念を先に潰す。地道な積み重ねが信頼を作ります。今日も院内のカフェで短く振り返ります。「誰の時間を減らせたか」「どの懸念を潰せたか」。答えが一つでもあれば、次の訪問はきっと前進します。***
13. ケーススタディ:信頼を失った瞬間と取り戻すまで
ケース1:無断撮影で出禁寸前
新任メンバーが設置前に写真を撮り、看護部から厳しく注意されました。即座に謝罪し、写真を削除。再発防止策(撮影は原則禁止、必要時は事前申請・当日再確認)を文書化し、事務局と看護部に説明。2週間の訪問自粛を経て再開できました。謝罪と手順明文化が最短でした。
ケース2:時間超過で会議進行を妨げる
プレゼンが長引き、次の議題に影響したことがあります。事務局から厳重注意。以降、タイムラインをスライド1枚で示し、進行役を社内で決め、質疑が長引く場合は「持ち帰り項目」に移すように。時間を守る会社として見直されました。
ケース3:名刺切れで信頼を落とす
名刺を忘れ、電子名刺で代用したものの、反社チェック用に現物を求められ困りました。以後、名刺・身分証・会社概要を予備ケースに入れて常備。小さな準備不足が不信を招くと痛感しました。
ケース4:教育工数を甘く見て拒否される
「簡単です」の一言で看護部が納得せず、導入が止まりました。夜勤帯を見学し、教育を15分動画+15分ハンズオンに再設計。問い合わせ窓口も明示し、再訪で承認を得ました。「簡単」は現場を見てから使うと決めました。
ケース5:情報セキュリティ審査で差し戻し
データフロー最新を持参せず、審査が1サイクル遅れました。技術資料をバージョン管理し、初回で不足を洗い出し、1週間で埋める運用に変更。次の案件では90日以内に審査通過できました。
14. 追加チェックリスト(さらに15項目)
- 院内ネット接続のMACアドレス登録を確認したか
- 荷物搬送・デモ機搬入の動線を確認し、エレベータ優先ルールを守ったか
- 感染対策(手指消毒、マスク、ガウンなど)を施設ルールに従ったか
- 廃棄物の持ち帰り・処理方法を確認したか
- 試供品・サンプルの数量と回収計画を明記したか
- 委員会議事録に名前が残る場合の共有範囲を確認したか
- 電源タップや延長コードの使用許可を得たか
- 会議室のレイアウトを元に戻して退出したか
- 競合に関する質問が出た際、公正に回答したか
- 個人の連絡先をむやみに聞かず、代表窓口を通したか
- 追加資料・Q&Aを約束した期限内に送付したか
- モデル更新やバージョンアップ時の周知方法を説明したか
- クレームやトラブル報告への一次回答を24時間以内に行ったか
- 病院の文化・慣習(靴の履き替え、エレベータ優先など)を事前に調べたか
- 自社メンバーへの医療マナー研修を定期的に行ったか
15. 2024〜2025の法規制・ガイドライン動向(概要)
- 医療DX推進でクラウド活用ガイドラインが整備され、閉域網・暗号化・ログ管理・モデル更新審査の要件が明確になりつつあります。最新版を確認します。
- 個人情報・匿名加工・仮名加工の線引きが曖昧になりやすく、情報部と定義をすり合わせることが重要です。
- 反社チェックや利益相反の厳格化が進んでおり、会社情報や取引実績の事前準備が求められます。
- 働き方改革関連で時間外削減KPIが厳格化。提案の効果を数字で示す必要性が高まっています。
16. 日常で意識している小さな習慣
- 訪問前に院内ニュースやプレスリリースを確認し、体制変更を把握。
- 会議前に深呼吸をし、意識的にゆっくり話す。
- 相手の発言を要約して確認する(アクティブリスニング)。
- 名刺交換時に目的を一言添え、ゴールを再共有。
- 帰り道で「良かった点」「改善点」を2行ずつメモし、翌週の動きに反映。
- 社内メンバーに最新の院内ルールやマナーを週次で共有。
17. まとめ
医療業界特有のマナーとルールは、相手の時間と安全を守るためのものです。小さな準備と確認で、信頼を失うリスクを大きく減らせます。言葉よりも行動と準備が信頼をつくると実感しています。今日も院内のカフェで5分だけ振り返ります。「誰の時間を減らせたか」「どの懸念を潰せたか」。答えが一つでも浮かべば、次の訪問はもう少しうまくいくはずです。***
18. 参考にしている社内テンプレと研修
- 訪問前チェックリスト(50項目):全員が同じ品質で訪問できるよう、出発前に必ず確認。
- 技術資料テンプレ:データフロー、ログ仕様、責任分界、PoC計画を1冊にまとめたもの。初回訪問に必携。
- 医療マナーeラーニング:新人向けに30分で受講できる教材を用意し、月1でアップデート。
- 失注レポート集:差し戻しや失注理由と改善策を共有し、次の訪問で同じミスを繰り返さない。
- 言い換え集:「簡単です」→「ここが難所ですが、こう解消します」「すぐ終わります」→「15分で終えますので、時間配分はこちらです」など、誤解を生みにくい表現に置き換える。
これらの地味なテンプレと研修が、結果的に一番効きました。
明日もまた、病院の廊下を歩きます。次に会う誰かの時間を少しでも守れるよう、今日の学びをリストに書き足して出発します。***
19. 最後の一言メモ
・病院の時計はいつも少し早く進んでいるつもりで行動する。
・「もう一人いるので同席させてください」は、必ず事前に相談してから。
・困ったときほど、事務局と看護部に正直に相談する。助けていただいた回数が信頼に変わる。
・帰り道に見上げる病院の窓を見ると、そこで働く人の時間を守る責任を思い出す。
また病院へ。***
追加リソース
医療業界特化の伴走型営業支援やマナー研修、資料テンプレはLPにまとめています。短時間で確認したい方は詳しくはこちらをご覧ください。
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